今更のクレーム

 「区画が狭い」は、1年半前の話題です。既に説明されているにもかかわらず、思い出したようにぶり返すのは、豊洲市場の他の「設計ミス」指摘と同じです。

豊洲市場の「狭い」について

 完璧な設計は無理なので、豊洲市場でももっともなクレームもあるようです。通常、設計が完全に完了して施工に取り掛かることは少ないです。工事中も設計の見直しは行われるので、設計変更があります。さらに、豊洲市場ほどの規模になると、完成後にもいろいろと不具合は見つかるもので、補備工事が行われることも多くあります。いわゆる設計者や施工者の負担による手直し工事ではなく、発注者が工事費を支払います。不具合の生じた内容について、発注者は承認しているからです。

 しかし、「区画が狭い」については、他のクレームとは違い、建物完成後には通常ありえません。それは、自分の家を注文する場合を考えれば明白です。建物完成後は、雨漏りがするとか、冷房が効かないというようなクレームはよくあります。一方、部屋の広さは、設計者と施主が打ち合わせなければ、設計に取り掛かれませんので、完成後に初めて気づくというのは、施主がどうかしています。上記のリンク記事で、建築エコノミストがいうように、現地調査なしで、机上の設計だけでできるのは、設計資料集に標準の面積が掲載されているような一般的施設ぐらいです。それでも、現地調査なしはあり得ませんが、卸売市場のようなものは、使用者と打ち合わせることなく設計できるものではありません。仮に、使用者が代理人に打ち合わせを任せていたのなら、クレームは代理人に言うべきで設計者にいうのは筋違いです。豊洲市場の場合、東京都が代理人的立場かもしれませんが、入居予定業者が全く建物完成まで関わらないというのも奇妙です。

 東京都の対応が悪く、要望を聞いてくれないという声もありますので、狭いと申し入れていたけど、無視された可能性もあります。しかし、その場合は、「設計した人は何でこんな造りにしたのか?」と今初めて知って驚いたようなクレームにはならず、「散々、申し入れたのに、こんな造りにされた」というような文句になるはずです。

 では何故、今頃気づいたのでしょうか。それは想像するしかありませんが、そもそも移転したくなければ、設計の打ち合わせにも無関心で、どんな設計なのか知らなかったのかもしれません。そして、関心があるのは移転の阻止だとすれば、機会あるごとに移転できない理由を探したくなるのではないでしょうか。本来は、移転できないもっともな理由があったのかもしれませんが、もはや、後付けで理由を次々に見つけようとしているように感じます。移転が決定しても、不満は言っておきたいという気分なのかもしれません。それは仕方無いとしても、不満の矛先が違います。

 以前にも、同じテーマの架空の話を書きました。
 
あなたのレストラン物語

 レストランを巡る争いの主役は夫と妻でした。設計者は争いのトバッチリを受ける損な役回りです。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いかもしれませんが、袈裟にとっては迷惑です。利害の一致しない関係者の多い施設の設計では、ありがちです。