建築物石綿含有建材調査者

 建築物石綿含有建材調査者協会とは、2016年4月に発足した出来立てホヤホヤの一般社団法人だ。会員の建築物石綿含有建材調査者は国土交通省が2013年に発出した告示に基づく資格者である。いわゆる国家資格の新設は現在では困難になっていて、この資格も一般財団法人日本環境衛生センターというところが行う講習会修了者に与えられるものだ。国交省は日本環境衛生センターの承認だけを行っている。最近、新設される資格制度は大体このような間接的な仕組みになっている。国が直接認める国家資格ではないが、資格認定団体を認めて、準公的な資格とするという、回りくどいものだ。

 この協会と調査者の設立趣旨や存在意義には大いに賛同するが、タイミングとして今頃できた理由がよくわからない。個人的な感触では、あまり需要があるとは思えないからだ。余計なお世話かもしれないが今後の先行きを心配している。建物の石綿が問題になったのはかなり以前の事だ。大量の石綿吸引が有害であることは、1938年にドイツで分かっていたらしいが、世界的に対応が始まったのは1970年代だ。日本も1975年に重量比で5%を超える吹付石綿が禁止された。その後何度か法改正が行われ、2006年に重量比0.1%を超えて石綿が含まれるすべての製品の製造、使用が禁止された。それからでも、すでに10年以上経過している。

 しかも、公的な建築物については、石綿の調査はほぼ終わっていて、官公庁は結果を公表している。ただし、民間の建物は未調査のものがまだ数多くあり、解体する場合には調査をしなければならない。既存の石綿含有建材を使用した建物はそのまま使えるが、除去工事や解体の時に規制が掛かってくる。未調査の民間建物の解体は相当あるだろうから、調査者の需要は一見ありそうに思える。しかし、建築物石綿含有建材調査者が行うのは、いわゆる分析調査ではなく、建物の現地調査や施工報告書の使用材料の調査、あるいは建物使用者へのヒヤリング調査、つまり一次調査なのである。

建築物石綿含有建材調査者講習
http://www.jesc.or.jp/training/tabid/129/Default.aspx

 受験資格の区分を見ると、建築技術者の類と作業環境測定士が含まれているが、講習内容には作業環境測定士が顕微鏡を使って試料の分析を行うようなものは見当たらない。そして、重要なことは、現地で建材を見ても石綿が含まれているかどうかを判別するのは不可能なことだ。使用材料が記載された施工記録から分かることもあるが、施工記録を読めればよく、講習で教えてもらうような特殊な技能や知識は必要としない。さらに、記録通りの材料を使っているという保証はないので、確実性を求めるならば、結局、分析調査になってしまう。

 一方、分析調査は、顕微鏡を使って、石綿繊維であるかどうか判断して本数を数える。経験と特殊技能が必要で作業環境測定士については、資格者がおこなう必要があるし、今後の需要もありそうである。それに対して一次調査に新たな資格が必要なのであろうか。私には、建材の区別と図面が読める建築技術者であれば十分に思える。実際にも、現状では調査者の資格を求める法規制はないし、石綿除去工事について定めた「公共建築改修工事標準仕様書」にも「建築物解体工事共通仕様書」でも資格や特別な要件は求めていない。

 現状で、何か問題が発生しているのだろうか。ちゃんと事前調査を行っていないという問題はあるかもしれないが、調査できる能力のある人材がいないためだとは考えにくいのである。私は何か勘違いしているのだろうか。