労災問題は他人事

 豊洲市場移転騒動に付随して、ちょっと感じたことがあります。人間は関心のあることは過剰に気にするけど、関心のないことには鈍感だということです。市場の空気環境で汚染された食品を食べた人に健康影響が出るようならば、その空気環境下で働く人々にはそれとは桁違いの被害が出るはずですね。第一に、鮮魚が市場に滞留する時間は1日にもなりませんが、市場関係者は何十年とその環境で働きます。次に、同じ期間だとしても、直接、その環境にいる人間への影響が大きいはずです。燻製の煙には発がん物質が含まれていて気にする人もいますが、まあ許容範囲です。しかし、燻蒸庫の中に直接、人間をいれて燻したら無事ではすみません。

 ところが、奇妙なことに豊洲市場の「汚染」が食の安全を脅かす心配をする人は沢山いましたが、市場関係者の健康を気にした人はほとんどいませんでした。労働環境問題を指摘する意見は見た事がありません。共産党に至っては、食品を扱うには危険なので、豊洲には児童施設を作ろうと提案する始末でした。

 とはいえ、食の汚染に過敏になるのも分からないでもありません。病原菌による食中毒は、流通途上で汚染されて、口にするまでに菌が増殖するということがありますので、わずかな汚染にも気を使う必要があります。ベンゼンやひ素は増殖しませんが、なんとなく同じように感じるのかもしれません。

 しかし、食品以外でも労災問題は無視される傾向があります。建材の石綿は当初は石綿製品工場の労災問題でした。出来上がった製品を使った建物で、健康影響が出ることは殆どありません。私が調べた範囲では、日本国内で建物に使われた石綿が原因で亡くなられた方は一人だけです。それ以外の被害者は、石綿工場の労働者や工場周辺の住民です。

 にもかかわらず、建物に使用された石綿が社会問題になり、大量の除去工事が一時に発注されることになりました。その結果、除去工事への新規参入業者が増えて、いい加減な現場管理が行われて、作業者の石綿への曝露が増えるという二次労災問題が起きてしまいました。殆ど心配ない危険を除去するために、より大きな危険を招いてしまったわけです。

 多くの人は、自分が住む家の危険には敏感になりますが、その家の建材を作る工場で働く人や、除去工事の作業者の危険には思い至りません。言ってしまえば他人事ですから個人レベルでは仕方ない面がありますが、行政や政党は気づいて欲しいですよ。

 豊洲に児童施設を作ってもなんら問題ないと思いますが、豊洲市場の追加工事はそうとも言い切れません。何しろ、換気の悪い地下ピット内の作業の工事です。ベンゼン中毒が起こるとは考えられませんが、酸欠事故はたまに発生します。どんな仕事にも危険はつきものですが、そもそも必要のない仕事で労災にあうのはやり切れません。