高層住宅は危険か

ロンドンの高層住宅火災が発生して,日本の高層住宅についてはどうなのかという記事をいくつか見かけました。概ね安心できるような説明がされています。例えば,NHKニュースの要点は次のようになります。

・日本のマンションは住戸ごとに仕切られ,燃え広がりにくく,建物全体の火災は非常に珍しい。
・ロンドンの火災は外壁に燃えやすい材料が使われていた可能性があるが,日本では平成8年の広島元町住宅火災教訓によって,外壁には燃えにくい材料を使っている。
・日本の防火規制は海外に比べて厳しい。

 ただ,専門家のいうことは信用できないという人も結構います。では誰の言うことなら信用できるのかといういとよくわからないのですが,心配する気持ちは分からないでもありません。高所恐怖症は素朴で自然な感情ですからね。高層住宅は背も人口密度も高く,避難が困難なのは間違いありません。だからこそ規制が厳しくなっているわけです。やはり,戸建て住宅の方が安心だと感じる人も多いのではないでしょうか。地べたに近い方が安全だというのは,海外の高層ビル火災で窓から飛び降りる映像がよく流される影響があるかもしれません。日本でも,昭和8年の白木屋デパート火災で,着物の女性店員が裾の乱れを気にして窓から転落したため,その後ズロースが広まったという都市伝説もあります。都市伝説というか,実際にそういう記事が新聞に書かれたために広まったそうですが,事実ではないようです。

 高い所が危険なのは間違いなく,専門家が言うように日本の防災規制が補いきれているのかどうかが,気になるところではなないでしょうか。そういう時は,事実を調べるに限ります。つまり統計です。

 しかし,残念ながら,高層住宅と低層住宅を比較した統計は探せませんでした。そこで,1戸建てと共同住宅で代用してみます。総務省消防庁平成28年版消防白書に死亡者と出火件数のデータがあります。

平成27年度で,一般住宅 802人(65.8%) 共同住宅190人(15.6%) 
出火件数では,一般住宅 7811件(35.2%) 共同住宅3,774件(17.0%)

 住宅の戸数については,総務省統計局の社会生活統計指標があります。
2013年で,1戸建て 54.9% 共同住宅 42.4%となっています。

 このデータを見比べれれば,一般住宅は戸数の割に死者が多く相対的にに危険といえます。ただし,共同住宅でも低層のものが多く,高層は危険という可能性もあります。それについてはデータが無くて不明ですが,高層,低層というよりも,一般住宅には古い木造住宅が多いのが原因ではないかと思います。木造住宅は火の回りが早く,出火件数に比べて死者が多くなるのでしょう。

 また,一般住宅は防火管理者もいませんし,点検もいい加減です。高層住宅は大規模なものが多く,点検も専門業者に委託して行っているので,結果的に安全になっているのでしょう。高層だからどうのこうのというよりも,維持管理点検が安全にとってより重要です。

 さて,高層住宅だからといってそれほど心配する必要はなさそうですが,建物全体が燃えるような火災が絶対あり得ないとは言えません。そして不幸にして発生し,多数の被害者がでてしまえば,「専門家が日本では起きないと言っていた高層住宅の大火災が発生」とかなんとか大々的に報道され,社会問題化しそうです。その一方で一戸建ての全焼火災は時々発生していますが,普通の報道があるだけで,特別気にする人もいません。これに似た現象はおなじみです。稀に航空機事故で大勢亡くなると,恐怖におののいた表情でニュースキャスターが報道し,新聞の1面にデカデカと掲載され,有識者のコメントが付いたりしますが,日常的的な交通事故は10秒程度の放送と,3行の新聞記事で済まされます。