先人への敬意のない小池知事

市場のあり方といった長期的な検討は,まず,移転を判断した後で,しっかりと時間をかけて,みんなで検討すべきだ

 東京都水産物卸売業者協会の意見には,「今頃何やってんだという」イライラ感がにじんでいますね。

 盛土がないことで移転を延期したことまでは一応理解できるんですよ。移転を判断した前提が崩れた可能性があるなら,判断を見直す必要はあります。調べた結果前提は崩れていなかったので,目の付け所は相当悪いですけどね。しかし,「市場のあり方」なんてことは,食や建物の安全性のように白黒つけられる問題ではありません。あり方が正しかったかどうかなんてことは,実際にやってみなけれればわからないことが多くあります。経営方針が正しいことが事前に完全にわかるなら,世の中から倒産する企業はなくなるし,株で大損することもありませんよね。

 だからといって,「経営方針」や「市場のあり方」はどうでもよいということはなくて,しっかりと時間をかけて,みんなで検討すべきです。そして,数十年にわたって検討して移転が決定したわけです。今はその決定が正しかったかどうか実証する段階になっています。さらに次の段階で,実証の結果を吟味して,次の市場のあり方をしっかりと時間をかけて,みんなで検討することになります。世の中の大方の物事は,このようにして進んでいきます。

 しかし,小池知事はしっかりと時間をかけて,みんなで検討した市場のあり方を実証することなく,ご破算にして,あまり時間をかけず,身内のスタッフでやり直そうとしたんですね。これじゃ,同じところをぐるぐる回るばかりで,何も進みません。

 多分,小池知事も永遠にぐるぐる回るつもりはないと思います。気に入った市場のあり方ならすんなりと実証の段階に進めたのではないでしょうか。では,気に入る市場のあり方とはなにかというと,自分が決めたと言える市場のあり方でしょう。逆にいうと,自分以外の悪役が決めたものは気に入らないのですよ。

 ただ,小池知事は自分が気に入らないとは言わずに「都民が気に入らないと言っている」と言います。なんでそんなことがいえるかというと,非常に分かりやすいストーリーを作るからです。例えば「腐敗した都議会の決定」や「食の安全が脅かされる決定」なら,大抵の都民は気に入らないでしょう。建設工事入札不正や市場施設の危険疑惑はその作戦が的中して,進めた一歩を戻して再調査させることまでは成功しましたが,結果的に何も出てきませんでした。やはり,目の付け所が悪いんですよ。

 何事も完璧ということはありませんので,再調査で瓢箪から駒が出ることもあります。だから,こういう難癖付けにも,多少の意義はあるかもしれません。しかし「市場のあり方」のような問題では,「仲卸業者が気にいらない」ということは出来ても「都民が気にいらない」ということは無理があります。気に入る都民もそうでない都民もいる,全員一致がありえない問題だからです。また,再調査して不正や設計ミスが見つかるというような問題でもありません。実証して確かめるしかない問題なのですけどね。

 小池知事は,巨人の肩の上にのる矮人という意識がなく,悪人を懲らしめる正義の味方のつもりなんでしょうね。