遮蔽シートにまつわる妄想

 妨害に屈せず報告を取りまとめられた豊洲市場専門家会議の皆さまには感謝します。ただ,追加対策の遮蔽シート敷設は建築的対策を超えています。建築に危険物取扱用のグローブボックス並みの要求をしていて,無意味じゃないでしょうか。建築の施工レベルとは,しっかり防水しても,どこからともなく水漏れして,その経路もよくわからないという程度です。数μg/㎥の濃度の水銀蒸気を制御できるような代物ではありません。

 遮蔽シート案は,地下ピットを清浄にするという考え方ですが,地下ピットはそもそも清浄な空間とは言えません。なにしろ,時々,酸欠事故が発生するので,入るときは酸素濃度を測定しなきゃならないような空間です。また,どんな微生物が繁殖しているか分からず,有毒ガスを発生している可能性もなきにしもあらずです。硫化水素が溜まっている場合もあります。

 かくも危険な空間が建物の下にあって大丈夫なのかというと大丈夫です。仮に地下の有毒ガスが地上に漏れてきたとしても,換気や空調がされていますから,問題のある濃度にはなりません。地下から漏れてくる有毒ガスよりはるかに危険で高濃度の有毒ガスが地上の屋内では発生していて,それでも大丈夫なように作ってあるからです。最大の汚染源は人間です。

豊洲地下水なんて目じゃない汚染源が室内にあるが換気すれば何の問題もない

 要は,人間が居住し,食品を取り扱う空間を清浄にすればよいのですが,そこに接する地下ピットまで清浄にしようというのは,病的潔癖症だと思います。接する空間は地下ピットだけではなく,地上の大気もありますし,間接的には近くの東京湾の海水や側溝の汚水もあります。さらに言えば,建物屋内のトイレや塵芥置場にはかなり不衛生なブツが保管されていますし,豊洲市場で使用されているかどうか知りませんが,照明の蛍光管には1本当たり7mgの水銀が封入されているそうです。これが何かの拍子で破損すれば,相当量の水銀蒸気が屋内に漂う可能性があります。

 病的潔癖症なら,これらも気にしなければなりません。まず,最大の汚染源の人間を隔離するために全員宇宙服着用です。地下ピットの対策とバランスを取るには,建物の周囲にバリアを設けて,有害物質が侵入しないように遮蔽シート張りとしなくてはいけません。昼間から照明が必要になってしまい不便ですが,クリーンルームは大体そんなものですから我慢しましょう。屋外は施設管理者が管理できないエリアなので,どのような有害物質が降ってわいてくるのか分からないので,緩衝空間は必須なのです。

 緩衝空間がなくても,建物外壁で遮蔽できれば良いのですが,1階床コンクリートの将来のクラックなんぞは目じゃないほど,建物外壁は穴だらけなので必要です。出入り時にはドアを開放しますので気密性は保てません。そこで,遮蔽シートによる第2のバリアが必要になります。ここを出入りするためには,2枚の気密扉を持つエアロック機構を通ります。

 実は,地下ピット空間以上に盛り土は正体不明で,不衛生です。なぜなら,地下ピットはやろうと思えば,人間が入って管理できますが,盛り土の中の管理は絶望的です。そこに,今は存在しなくてもどんな有害物質が流入してくるか,どんな病原菌が繁殖しだすか分かりません。少し,掘り返してみれば,様々な得体のしれない生物が観察できるでしょう。それが建物内にゴソゴソと侵入してこないか潔癖症なら気が気じゃないでしょう。

 従って,建物下が盛り土だった場合でも,盛り土の下に遮蔽シートは必要です。盛り土のある屋外の土中には水銀蒸気が充満しているかもしれませんが測定していないので分かりません。地上は問題ありませんが,それは建物の1階も同じです。ただ,後からでは施工不可能ですので,地下ピットにしていたのはラッキーでした。

 でも,現実には,そんなことは気にせずに私たちは土の上に家を建てて平気で住んでいます。地べたの上で寝起きするのはアウトドア派に限られるかもしれませんが,家の中なら誰でも,安心して暮らしています。