重要度係数が1次設計にない理由の補足

 国交省営繕の構造設計基準の重要度係数は2次設計の下式で用い,1次設計には用いない。

保有水平耐力」>「必要保有水平耐力」×「重要度係数」

 重要度係数は,大地震時の機能維持に関わる係数であることがその理由であると以前の記事で説明した。

 重要度係数とか用途係数とか

 この点について,もう少し補足する。
 
 実は,昔の国交省営繕構造設計基準の重要度係数は,Ⅰ類が1.2,Ⅱ類1.1 ,Ⅲ類 1.0であった。「1.5,1.25,1.0」になったのは,兵庫県南部地震後の平成9年版からである。しかし,実質的にはほぼ同等であって,厳しくなったのではない。その理由は計算式を見るとわかる。以前の必要保有水平耐力Qunの計算式には,構造特性係数Dsではなく,靭性指標Eの逆数1/Eとなっていた。靭性指標Eと構造特性係数Dsの関係は次式である。

 1/E=Ds/λ

 ここで,λは「変形制限係数」といい,構造種別や重要度係数に応じて変わるが,おおむねⅠ類で0.8,Ⅱ類で0.9であった。重要度に関わる係数をまとめて,現在の式の形にすると,「現在の重要度係数」は「昔の重要度係数」/λに対応している。 

結局,Ⅰ類では,1.2/0.8=1.5 ,Ⅱ類では,1.1/0.9=1.22と現行基準とほぼ同じになる。

 変形性能があり,大きく変形できればエネルギー吸収能力が高く,耐震性も高いが,機能維持という面では支障が生じるおそれがある。そのため,大地震時でも機能維持が要求されるⅠ類,Ⅱ類の建物は変形制限を行ったのだろう。中地震を対象とした1次設計では,建物は無傷であるし,元々変形も小さいのであるから,さらに変形制限する必要がない。

 重要度係数とは,300〜400galの大地震よりもさらに1.5倍大きい,450〜600galの地震を考えているのではなくて,300〜400galの大地震でも変形が制限され機能維持できるようにするためと考えたほうがよいだろう。