あなたのレストラン物語 

 あなたは裕福である。経営するレストラン兼住居を近くの敷地に建て替えることになった。レストランが老朽化し設備も古く,保健所から不衛生であると改善指導も受けていたためである。新しい建物は,鉄筋コンクリート4階建てで,レストランも衛生的である。また,住居部分の部屋数や広さ,外観や室内の仕上げについてはいろいろと設計事務所に注文した。一方,基礎の大きさや構造,断熱の仕様については専門家の設計者に任せた。しかし,これらも建築にとって重要であるので,設計者は施主のあなたに説明した。

 ところが,建物が完成してみると,説明を受けた省エネ仕様と違っていた。建物外皮に厚さ100mmの断熱材を施すと説明を受けていたが,壁にしか断熱材は貼られておらず,柱部分には無かったのである。これでは断熱性能が確保できず,冬場には風邪をひいてしまい,こじらせて肺炎になるかもしれないとあなたは憤慨した。しかし,設計図書の承認は行っており,第三者に尋ねても,断熱性は確保されているというので設計事務所の責任は問えない。そこで,家族のだれが「住の安全」が脅かされる設計を承認したのかと犯人捜しを始めた。

 あなたも家族も,「設計ミス」に気づいたのは建物完成後であるが,実は設計打ち合わせの段階で何度も,柱に断熱材の貼られていない図面は見ていたし,工事中にも現場を見ていたのである。ただ,大して関心がなかったので覚えていなかっただけだ。でも,なぜ柱に断熱材が貼られていなかったのだろうか。薄い壁と違って大きな断面の柱は断熱性十分であり,断熱材がなくてよいからである。設計事務所としては常識である。あなたの怒りが不思議でならなかったし,設計ミスと吹聴され大迷惑であった。

 しかし,あなたは最初の説明と違うと憤慨し,設計事務所との打ち合わせを任せていた奥さんを激しく叱責したのである。奥さんが承認図にあなたのハンコを押したとかんがえたからだ。そればかりか,そんなケチの付いた家には住めんとあなたは,完成した家を売り払い,今の建物を改修しようとまで言いだした。あなたは裕福だが,これは少々無茶である。

 なぜ,無茶をするのか。実はあなたにとって省エネ性能などどうでもよかった。奥さんとの折り合いが悪いかっただけなのだ。奥さんは馬鹿真面目で保健所の指導を重く考えすぎていた。そんな奥さんが主導している新築の家には引っ越ししたくなかったし,奥さんには知られたくないが,本当のところあなたはそれほど裕福ではなかった。新築の家の固定資産税や維持費を払える見込みはなかった。ましてや,いまさら今の建物を改修するなど夢物語であった。新築の家は誰かに売っぱらって,現状のままでいたかったのだ。保健所からの指導は厳しいが,営業停止を食らうことはないと思っていた。この先,どうなるかわからないが,当面,営業できればよいのだ。

(現実の事件をもとにしたフィクションである)