ただでマンションを建て替える魔法

旧耐震マンション、都が容積率緩和 建て替え促す

例えば、敷地面積3000平方メートルの土地で容積率が100%高まれば、単純計算で広さ75平方メートルのマンションを40戸多く供給できる。建て替え事業の収益性が高まり、不動産会社などが再開発に加わりやすくなる。

 容積率緩和で建替えが可能になるのは何故でしょうか。不動産会社の参加は結果であって,理由ではないと思います。可能になる理由を考えるにあたっては,逆に建て替えが進まない理由を考えればよく,それは居住者が費用負担できないからです。しかし,容積率緩和で,住戸が増えても1住戸当たりの建設費は変わらないので居住者の負担は変わらないように思えます。しかし,少し考えれば確かに減らすことが分かります。

 分かり安いように単純化して考えます。元々,2億円の敷地に1億円の建物が建っていたとします。これをそのまま建替えると1億円の費用が掛かります。そこで,容積率を緩和して住戸を倍にします。建物の建設費用は2倍の2億円必要になりますが,新規の入居者に敷地と建物総価格4億円の半分の2億円で売れます。つまり,建設費の2億円が賄えてしまい,旧居住者の負担はゼロで建て替えができるという魔法が成立します。

 別に魔法ではなくて,敷地の半分を1億円で新居住者に売り,そのお金で1億円の新しい建物を買ったことになっているだけです。旧居住者の資産は建物の耐震性不足で価値ゼロになり,敷地の2億円だけですが,その半分を新居住者に売って建替え建物の1億円分を取得しており辻褄があいます。

 それにしても,全く負担なしで建て替えできるのは不思議に思えますが,その仕組みは容積率を2倍にしたことで,敷地の価値が2倍になったと考えれば納得できます。都が容積率という補助金をマンション居住者に与えたようなものです。このことは,規制を変えるだけで価値が生み出されることを意味します。説明上,敷地価格は変わらないとしていますが,実際には上昇するので,計算は少し違ってきますが,原理は同じです。

 規制とはそれだけの強力な効果を持つものですから,どこかの座長のように打ち出の小づちとして安易に使ってはいけませんね。容積率の緩和は経済価値を生み出しますが,それは都市環境や居住環境の悪化と引き換えに得ているといえます。都市環境や住環境を守るために容積率の規制があるのですから,そういうことになります。この場合は耐震安全性との兼ね合いでの判断だと思います。