DNA鑑定と冤罪

 準強制わいせつ容疑で産婦人科医が逮捕,起訴され裁判中で気になっています。医師が疑われている証拠に,原告の胸に大量の唾液が残っていて,医師のDNAと一致したというものがあります。DNA鑑定は塩基配列をすべて調べるわけではなく,他人でも一致する可能性があり,その確率もよくわからないそうです。そういう問題もありますが,調べているDNAが犯行時に残されたものか分からないという別の問題もあります。

 また,身体についた唾液はすぐ乾燥しますから,警察が採取したのは本当に唾液なのかも確実ではありません。DNA鑑定そのものの信頼性については,過去記事でも触れましたが,唾液の鑑定の成功率は5%程度で難しいらしいのです。

DNA鑑定 法科学鑑定研究所

 さらに,唾液の場合は,犯行時に残されたDNAなのかもあやふやのようです。

DNA鑑定 遺伝子医療時代

唾液を調べるときは何を調べるのでしょうか?
唾液自体には細胞がいません。
しかし、頬の内側などから剥がれ落ちてしまった細胞が混ざっています。
それを探して調べることで、DNA鑑定が可能となります。

DNAは乾燥に強いため、乾いてしまった血液からでも鑑定が行えますし、時間が経ってしまったものでも無問題です。
反面、放射線や強酸、強アルカリなど、物質の構造が変えられてしまうような変化には弱いです。

こうして採取したDNAは、PCR法というものを用いて増やします。
この技術で少量のDNAであってもSTRの判別が可能なレベルまで増やすことができます。
現在の技術では、1ナノグラム、つまり細胞一個分ぐらいのDNAがあれば、DNA鑑定が可能な量まで増やすことができます。

 つまり,唾液には細胞はなく,頬の内側などから剥がれ落ちてしまった細胞を調べているということです。そして気になったのは,「1ナノグラム、つまり細胞一個分ぐらいのDNAがあれば、DNA鑑定が可能な量まで増やすことができます。」という記述です。

 1個の細胞でも分かるならば,診察の時に手の皮膚から剥がれ落ちた細胞を鑑定している可能性もあるんじゃないでしょうか。最初は,細胞1個でも鑑定可能なのに,唾液の鑑定成功率が5%しかないというのは不思議でした。しかし,唾液に含まれる細胞の由来はよくわかりません。たった1個の細胞の混入でも検出してしまうので,かえって由来が不確実になります。

 DNA鑑定技術が高度で,5%どころか100%近い信頼性があっても,その鑑定しているDNAがどこから来たものかがあやふやでは無意味です。犯行現場に容疑者の毛髪が発見されても,容疑者が被害者の知人ならば犯行の証拠にはなりません。医師は患者の診察を行いますから,被害者の胸に医師の細胞が付着することは十分ありえますね。