1社99.9%入札 都政改革本部の苦悩

 都政改革本部が入札制度の見直し案をまとめた。また,オリンピック・パラリンピックの競技会場の建設工事や豊洲市場の建設工事について、不正は見つかっていないと報告した。

都政改革本部

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 この見直し案で評価できることが一つある。予定価格の事前公表の見直しである。これは,当然である。繰り返し述べていることだが,事前公表になった理由は,秘密にすべき予定価格の漏えいという不正対策である。漏洩をなくすには,秘密ではなくしてしまえばよいという嘘みたいな理由である。殺人犯罪をなくすには,殺人を合法化すれば犯罪はゼロになるという論理と同じであり,馬鹿馬鹿しいことこの上ない。一時は多くの自治体が事前公表を行ったが,現在では半分以下に減っている。国は会計法で事前公表は出来ず,自治体に対しても,事後公表を推奨している。模範を示すべき東京都にしては遅すぎる決断だが,見直さないよりはマシなので評価する。

自治体の入札制度運用状況|依然として多い予定価格の事前公表

 見直しの発端は99.9%入札である。事前公表すれば,入札額が予定価格に張り付きやすくなるが,それだけでは張り付かない。談合がなく競争性が確保されていれば,公表価格に張り付くことはない。他社と競争しなければならないからだ。そのため,談合不正を疑ったのだろうが,浅はかな推測である。

 少し考えれば分かるが,99.9%入札だけでは談合の証拠にならない。談合以外にも競争性がない場合があるからだ。例えば,1社しか施工出来ないような高度で特殊な工事がそうだ。また,施工可能であっても,予定価格より安くできる社が1社しかなく,予定価格が事前公表されていれば1社しか応札しないだろう。

 豊洲市場がまさにその例だ。1回目の入札は不調になり,各社にヒヤリングを行った。ヒヤリングの最低見積に予定価格を修正して事前公表して2回目の入札を行えば,一社のみの99.9%入札は必然である。この入札不調,2回目の入札という流れは,すでに入札としては形骸化していて,ネゴに近い。東京都の資料によると,一社応札は5億円以上の大規模工事に多い。大規模工事は施工可能な業者が少ないからで,談合が多いからではない。

 ここで,予定価格の意味を考えて見る。予定価格を設定するのは官公庁だけである。官公庁以外でも入札は行い,支払える上限額,いわゆる予算はあるが,予定価格とは意味が違う。予算は買い手側の都合で決めるものだ。それに対して工事の予定価格は売り手の原価や適正な利益などを買い手側が勝手に憶測して決めたものだ。官公庁が物品を購入する場合も予定価格を設定するが,官公庁は物品の原価など知らないので,見積もりで決める。工事も同じで良い筈だが,なぜか違うのである。

 工事の場合も施工者の原価を知っているとは思えないが,どういうわけか,発注者は原価を知っているつもりになって,客観的に適正な価格という建前を言うのである。この建て前に従えば,1社入札や入札不調,低入札などは,すべて応札者の不正を疑うことになる。だが,建て前は幻想にすぎず,低入札は予定価格が高すぎ,入札不調は安すぎるというだけの可能性もあるのだ。官公庁の建設単価は1年前の調査によるので,物価変動が激しい時期には,低入札と入札不調を昔から繰り返しているのが実態である。別にオリンピックや豊洲が珍しいわけでもない。

 多分,都政改革本部も分かっているはずだ。なぜなら,「不調が複数回発生している案件については事前公表とする」と腰砕けになっているからだ。予定価格が正しいなら,事前公表する必要はない。不調後の事前公表は,「なんとか,この価格でやってもらえませんかね」という値切り交渉(歩切り)なのだ。

 失笑を禁じ得ないのは,「1者入札の中止」である。あくまで,一社入札は不正の信号という建前を崩していないのだが,「再入札案件は、入札参加資格を最大限に見直したうえで1者でも入札を実施する」とすぐさま抜け道を用意している。一社入札は応札者の不正ではなく,発注者の予定価格に原因があることを認めざるを得なくなっている。

 常識的に考えて,談合するなら1社入札などというあからさまなことはしない。お付き合い応札をするのが普通である。過去の談合はすべてそうである。発注業務のプロである都政改革本部の都のメンバーは,その程度の常識はお持ちだと思う。しかし,都知事の指示で見直しの体裁を取らざるを得ないので,苦肉の策として抜け道だらけの報告にしているように見える。知事に振り回される都のメンバーにご同情申し上げる。

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