居ながら改修®

 過去記事で,鹿島建設の特許について書きました。

建築の特許

 鹿島建設は,それ以外の知財保護にも熱心なようで,商標も積極的に取得しています。「居ながら工事」や「居ながら改修」という言葉は建築分野では一般的で,普通に使ってきましたが,なんと鹿島建設の「商標」になっています。私は最近知って,驚きました。自由に使えず,不便で困ります。

特集:鹿島のリニューアル

 鹿島建設への不満はともかく,「居ながら」という言葉が建築改修で一般的なのは,常に問題になるからです。新築工事に比べて改修工事はただでさえ面倒くさく,工事着手後の変更も多いものです。これが,建物を使いながらとなると,さらに難易度が上がります。当然,建物使用者からのクレーム,トラブルも増えます。利用者も巻き込んだ公衆災害事故が起こりやすく,気を使います。

 などと,説明するまでもなく,居ながら工事が大変なのは,自分の家の建て替えを考えれば分かり切ったことです。別の敷地に新築すれば,完成後に引っ越しするだけで,工事中はほぼ普段通りの生活ができます。これが,家を使いながらとなると,騒音,振動,塵埃飛散,悪臭に悩まされ,生活空間は狭くなり,何度も家の中であっち行ったり,こっち行ったりしなければなりません。この悪環境に数か月間耐えられる人は少なく,普通,住宅の居ながら工事は簡単な修繕工事に限られます。それでも,ホテルに一時退避する場合が多いと思います。

 住宅以外の業務施設も似たようなものですが,工事発注者と建物使用者が別であるため,複雑さが増します。自宅の工事は自分で発注しますので,不便は覚悟の上でしょうが,単なる使用人にとっては,突然降ってわいた災厄に過ぎませんから,クレームが遠慮なく出てきます。クレーム対応には費用が掛かりますので,お金を出す発注者は我慢して欲しいと願っても,建物を使っている人の知ったことではないので,要望はいくらでも出てきます。また,様々な利用者がいると,それぞれが相矛盾する勝手な要望を言い出し,その調整に工事関係者は苦労します。さらに,工事現場は出会い帳場と言われるように,多くの作業者が出入りしますので,盗難事件にも気を使わねばなりません。あれやこれやで,建物利用者も工事関係者も疲れ果てます。

 と,いうような常識は市場問題PTの小島座長も重々ご承知だったようで,第7回会合で提出された築地現地再生私案には,しっかり条件が書いてありました。「関係者の協力が不可欠」と。全く,その通りです。問題は,その協力というか我慢がどの程度のものかですが,市場関係者は過去に経験済みなので十分お分かりのはずです。以前は我慢できなかったが,今度は大丈夫と覚悟を決めるのなら,部外者が止めることはできません。

 しかしですよ,我慢しないで築地市場を再生する方法があるのですけどね。一旦,豊洲に仮移転すれば,築地をスムーズに改修出来ます。ローリングの制約がなく,完成形も理想的に計画できます。小島座長の見積もりでは居ながら改修の工期は6年でしたが,仮移転して,一気に工事を行えば半分以下の期間で出来るんじゃないでしょうか。工事費も多分安くなります。もう,作っちゃったんだから,利用しない手はありません。行きっぱなしは嫌でも,一時的ならいいでしょう。

 なのに,なぜまた,我慢を強いる居ながら改修計画を小島座長は提案したのでしょうか。一瞬でも,穢れで安心できない豊洲には近づきたくないのでしょうか。でも,工事中には,粉塵は舞うわ,建設重機から排ガスは出るわ,油煙は飛散するわ,接着剤や塗装から有機溶剤は揮発するわで,こっちの方が心配です。厚さ数十センチのコンクリート床で隔てられた地下深くの地下水と違って,仮設の養生シートかボードで仕切られた,すぐ隣でいろんな汚染が発生します。しかも,完成時には辻褄を合わせても,工事中は,何かと事故や手違いがあるものです。

 実に馬鹿げています。