ベースシヤー係数C0(C1に修正)=0.2の適用範囲

 豊洲市場建物の地下ピット部分の地震力について,高野さんから次のコメントを頂いていた。悲しいことに脳の老化が進み,固有値解析の復習をしたり,計算間違いを犯したりと,記事にするのが遅れてしまった。

「基礎の水平震度」への高野さんのコメント
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20170315/1489566859

 一見地下に見せているが、実質的に{地上部の層=地上階」ですよね? というのが日建さんとの争点です。

 私が思うに,争点はそこではない。なぜなら,地上として扱っても,地下として扱っても結果は変わらないというのが,日建設計さんのモーダルアナリシスによる説明だからだ。争点はその後にある。高野さんは,第1層のベースシヤー係数は必ず0.2になると思い込んでおられるが,そうではないのである。

 建築基準法のベースシヤー係数やAi分布は,整形かつ剛性変化が少ない,一般的な建物を対象とした略算法である。豊洲市場の地下ピット部分のような,一般階と比べれば剛体として扱えるほどの層も地上第1層として扱いたいなら扱っても構わない。ただし,その場合は,その剛性などを考慮して地震荷重分布を決めなければならない。C0C1=0.2や建基法施行令のAi分布は適用範囲外で使えないと考えるべきである。

 一方,地下ピット部分を基礎と考え,地上1階部分から,構造的な第1層が始まると考えるのであれば,C0C1=0.2や建基法施行令のAi分布を使用して差し支えないだろう。地上部分に大きな剛性の変化はないからだ。

 地下部分の剛性を考慮した地震荷重算定方法としては,例えば,建築学会の「荷重設計指針」にモーダルアナリシスによる方法がある。つまり,日建設計さんが提出した市場問題PTの資料の方法であり,5階建てモデルの第2層以上と4階建てモデルの第1層以上の地震力分布は同じになることが明快に示されていた。ここまでは高野さんも了解されていることと思う。しかしながら,5階建てモデルの第1層(地下ピット部分)の地震力は示されていなかった。ここが「争点」なのであろう。もっとも,日建設計さんが相手をしているかどうか知らないが,私は記事を書いたいきがかり上,計算してみた。地上部分を1質点にまとめた2質点系モデルによるので,大雑把な傾向を見るだけだが,むしろ簡単な方が分かり安いだろう。

 結果を下図に示す。(ケース1)は1,2階の剛性が同じ場合であり,(ケース2)は1階の剛性が2階の10倍ある場合で,豊洲市場をイメージしている。,豊洲市場の地上部分の総重量と地下部分の重量はほぼ同じらしいので,1,2階とも質量は,2×10^8kgとした。剛性については,豊洲市場の建物高さから求めた1次固有周期にほぼ等しくなるように決めた。具体的には,1質点系の(ケース3)の固有周期が0.5秒となるような剛性と同じ((ケース2)の1階はその10倍)とした。

 「建築物荷重指針」の固有値解析を行い,(7.1)式による各階の層せん断力から,層せん断力係数を算出した。結果は図に示すとおりである。実際には,周期によって応答スペクトルSa(Tj,ζj)は変化するが,一定値Saとした。(ケース1)の第1層の層せん断力係数が0.2になるように応答スペクトルSaを調整したものをカッコ内に示している。

 見ての通り,(ケース1)の第1層と(ケース2)の第2層のせん断力係数はほぼ同じになる。(ケース2)すなわち豊洲市場モデルの第1層はほぼ剛体なので,地盤の揺れは殆ど増幅されず,第2層の下部に伝わるだろうという直観にも合う。(ケース2)の第1層の層せん断力係数は,0.145であり,これより水平震度を逆算すると,0.078(2×0.145-0.212)となり,0.1以下である。
  
 常々,感じていることだが建築基準法体系は細かいことまで決めすぎている。建築技術者の利便に配慮して実用的なマニュアルと化している面がある。建築生産の規模を考えればやむを得ないことではあるが,弊害もある。基本を理解していないと,適用範囲を超えて規定を適用してしまう恐れがあるからだ。今回は安全側というか過剰設計になるが,場合によっては危険側もありうるから適用範囲には要注意である。



【3/23】図を大きくしました。
【5/15】kensyou_jikenboさんのご指摘により,「C0」を「C1」に訂正しました。