築地市場場内に足を踏み入れたのは随分以前です。車の往来が激しく,活気があるなと感じました。タイムスリップしたような,猥雑で懐かしいような雰囲気でこういうところが人気の観光スポットの所以だと思いました。一般観光客も出入り自由ですので,皆さん普通の恰好ですが,ターレーを運転している人もノーヘルでした。当時は別に不思議とも感じませんでしたが,考えてみれば建設工事現場や工場の作業者は保護帽着用義務があります。私の通勤途上にある町工場ではフォークリフトで材料運搬作業をしていますが,オペレーターはちゃんとヘルメットを被っています。
危険作業従事者の保護帽着用は常識ですが,一般人が建設現場を見学するだけでもヘルメットは必須です。一般人のヘルメットといえば,日曜日の新聞にスキー場事故死の記事が掲載されていました。昔は,ヘルメットを被っているのは競技スキーのレーサーだけでしたが,最近は一般スキーヤーも2割程度着用しています。私も最近使い始めました。でも,欧米の80%に比べれば低い着用率です。ちなみに,スキー場の死亡事故はスキーヤー46.6%,スノーボーダー40.4%と意外にもスキーヤーが多いです。さらに,少し以前に初心者スノーボーダーの頭部打撲による死亡事故が話題になりましたが,現在では中上級スキーヤーのスピード出し過ぎの死亡事故が多いとあります。
スキー場で事故死、15年間で200人以上
http://www.yomiuri.co.jp/national/20170225-OYT1T50123.html
事故の傾向も時代とともに変化しているようですが,昔ながらの感覚の中高年の中上級スキーヤーがカーヴィングスキーで暴走しているのかもしれません。これはあくまで,私の個人的感想ですが,昔の板を高速で走らせるには技術が必要でしたが,今の板は簡単です。死亡事故に関してはスノーボードよりスキーの方が危険という調査もあるようです。
いずれにせよ時代は変化していて,レジャースキーヤーもヘルメットを被る時代になっています。その一方で昔の感覚のままで暴走してしまうスキーヤーもいます。
築地市場に話を戻します。以前に訪れた時は能天気な観光気分でした。しかし,今や,築地の危険性は建設現場なんて目じゃないという実態を知ってしまいました。なんと年間400件もの事故が発生していますし,交通事故だけでなく,建物が老朽化してコンクリート片が落下しています。1年前には,ターレーの事故でお亡くなりになった方もいます。年間400件というと,ほぼ人口10万人当たりの年間交通事故発生件数と同じです。10万人規模の都市と同じ件数の事故がわずか23haの築地市場で発生しているんですね。もはや私は観光気分に浸れませんが,世間の大半は気にもしていないようです。
人気の観光スポットである理由は,ノスタルジックな雰囲気だろうと書きましたが,テーマパークのような見た目の演出ではなくて,安全面も半世紀前の古き良き時代のままに凍り付いているんじゃないでしょうか。現代の感覚では危険極まりなくても,半世紀前なら当たり前だったのかもしれません。
凍り付くのは,営業権などの既得権によって閉鎖社会になっているからではないでしょうか。外に開かれた社会では否応なく外圧によって変化させられますが,閉鎖社会は現状維持したがるだれにでもある人間の本性が勝ります。その本性は,BLOGOSで行われている議論にも見られます。
豊洲市場と築地市場:「食の安全」に関わるリスクが低いのはどちら?
http://blogos.com/discussion/733/
BLOGOSの議論では豊洲が優勢ですが,「今まで健康被害が特に何も起こって無い実績があるからね。豊洲は未知数。」という意見もあります。予防原則が持ち出されるときに良く目にする意見で,例えば,自然の食品は人類の長い歴史で安全が確認されているけど,遺伝子組み換え食品のような新しいものは何が起こるか分からず気味悪いという素朴な感情です。しかし,これは大きな錯覚であって,自然の食品は長い経験で実に危ないことが分かっています。それでも慣れで気にせずに食べているだけでしょう。フグや生ガキはいうに及ばず,禁止された生レバーだって食べます。そして,人類の長い歴史など考える必要も無く,毎年,食中毒は発生しますし,自然の食品はがんの原因の上位を占めています。
築地でも,健康被害が特に何も起こって無いことはなくて,いろいろ起こっています。なのに,なぜか気にしません。ただし,ソフトの問題で土地の汚染が原因ではありません。築地が豊洲より汚染されているのは確実ですが,食の安全に影響するほどではないでしょう。しかし,築地の労災対策や一般観光客の安全対策は考え直してもらわないと,私は怖くて再訪できませんよ。