基礎か柱か

 豊洲市場建物は,地上4階として設計されているはずで,地上4階地下1階ではない,と前の記事で述べた。建築基準法上の「地階」という意味ではなく,構造計算上のモデルの考え方がである。このことについてもう少し説明する。

 昔の日本の木造建築には掘っ建て柱(図1)という地面に柱を刺す構造が存在した。だが,現代建築では少なく,通常は,柱の根元にも基礎(地中)梁を設け,さらに柱の下に基礎(フーチング)を設ける。(図2)基礎は地盤の上に置かれるか,さらに杭で支持される。

 もし,豊洲建物の地下ピット部分を地下階と考え,あの馬鹿でかいコンクリートの塊を柱と考えると,まさに掘っ建て柱になってしまう。柱の下には基礎がなく,柱に杭が直接付き刺さっているのである。現代でも基礎梁がない構造はあるが,基礎がない構造はたぶんない。なぜなら,構造計画的に不合理だからである。

 柱に直接,杭を突き刺せば,当然,柱断面よりも杭断面は小さくせざるを得ない。つまり,柱が必要十分な断面だとすれば,杭断面は不足し,杭が必要十分な断面ならば,柱断面は不足することになる。杭の強度を柱より大きくすることで一応の解決できるが,柱と杭の水平接触面だけでは,十分に荷重を伝えることができず,杭を柱の中に相当長さ埋め込んで,杭外周と柱コンクリートとの付着力も期待できるようにする必要がある。もちろん,豊洲市場の建物はそうはなっておらず,杭の埋込み長さはわずかである。

 また杭支持ではなく,直接地盤で支持する場合も同様である。もし基礎がなければ,地盤は柱の断面の大きさでしか建物と接しない。柱のコンクリートと地盤では強度が全然違うので,地耐力不足か柱断面が過剰ということになってしまう。この場合も,柱を地中深く埋め込んで,柱側面と地盤の摩擦力を期待することも理屈上は考えられる。しかし,摩擦力を考慮する設計法は長い杭にしか認められておらず,柱や基礎の側面摩擦力に期待する設計法は確立されていない。

 以上の事と,寸法のプロポーションからして,地下ピット部分のコンクリートの塊は1階の柱を受ける基礎であって,地下1階の柱ではない。もし柱ならば,実に不合理な設計である。第2回市場問題PTにおいて日建設計提出の資料の断面図(28ページ)にも,「基礎」と明記してあり,地下1階柱ではない。なお,外周部の基礎は基礎梁の途中までの高さまでしかないことが読み取れるだろう。柱なら基礎梁天端まで伸びていなければならない。どう見てもこれは基礎である。

豊洲市場の建物の構造安全性について 株式会社 日建設計 
http://www.toseikaikaku.metro.tokyo.jp/shijyoupt02/04_1nikkennshiryou.pdf

 一般的には,基礎は地中に埋まっており,最下階の床下も地盤であり,床下空間を設けることはあまりない。確かに,これだけの大空間がある建物は珍しい。しかし,小規模なら,床下配管スペースを設ける場合もあるし,軟弱地盤のため,杭支持にした結果,建物は沈下せず,床下の地盤が沈下して空間が出来てしまうこともある。それでも,別に構造的な不都合はない。

 高野氏は周囲の地盤の拘束がないことを問題視しているが,基礎や基礎梁が地盤面より高くなっている高床式の建物もある(図3)。地盤の拘束はないが,別に構わない。建築構造設計者は,計算に先立ちどのように壊れるか想像できなければいけないと教わった。高野氏は市場問題PTに持ち込んだあの模型のように壊れると想像しているようだが,それは,想像というより現実離れした妄想だろう。