安心のために安全を犠牲にする

第4回豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議
会 議 録
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/expert/04/giziroku.pdf
○平田座長 今地下の問題と地上の問題とは分けてということは、多分築地の方、山粼さんなんかもご了解済みなんです。それをわかっていただいているんですが、地下に汚染があることによって、いわゆる築地ブランドといいますか、これからつくろうとしていく豊洲ブランドに影響があるんではないかということを心配されておりますので、それがサイエンスで安全だということと、人間の心の問題として安心であるというところの非常に大きな線引きがあると思うんです。そういうところで、確かに割り切ってしまえば、地下水は飲まない。汚染土壌がもし仮にあったとしても触れることはないという状態で、土壌汚染対策法上は何の問題はないということなんです。土地利用についても制限は、若干工事をやるときに制限はありますけれども、問題はないんですけれども、それではなかなか一般の消費者が納得をしてくれない面があるんではないか。そのために地下のところは安心のためにどうすればいいかということを今まで延々とやってきているわけでございますので、いろいろな議論をしていただくのは私は結構だと思うんですけれども、そういう感じだと思います。
 でも、今日、ああいうふうな意見が出たということもございますので、山粼さん、どうですか。

○質問者 反論の会になってしまうので、そういう意見もあるということで私ども市場の人間としては受け止めなきゃいけないとは思っていますが、お二方に申しわけないんですが、あなた方はここで商売をやっているわけでもないですし、築地が汚いとか、豊洲がきれいだとかと言う資格はないと思います。申しわけないんですが。(「そのとおりだよ」の声あり)(拍手)ですから、あなた方が手を挙げる自体もおかしいと思いますし、僕が言いたいのは、我々が市場人としてやっていく中で、先ほど先生が言われたように、これから大地震が起きたりとか、いろいろな部分で地下水が吹き上がったり、下から土が吹き上がっているときに、拡散された汚染のされている土が吹き上がってしまったときに、では、そこの豊洲市場は安心なの、安全なのと言ったときに、消費者、東京都民がどう受け止めるかということが大事であって、僕はそういった部分では、安心があって、今築地で1,000円で売れているものが、1,000円の価値のある魚が、1,000円で豊洲でも流通しなかったら意味がないことですし、1,000円で売れている野菜もそうですよね。同じような価値で流通しなかったら、やはり日本の水産業、農業もおかしくなってしまいますから、そういった部分で言っているのであって、申しわけないんですけれども、本当にこういう議論の場でなかったら、どなりつけちゃっています。ですから、この議論はそういうところまで配慮していただかないと、都民は納得しないと思いますし、よろしくお願いいたします。(拍手)

 平田座長の発言を要約すると,安全上は何の問題がなくても,一般消費者の安心のために対策を延々とやってきた,とでもなります。安全過ぎて悪いことはないと思ってそうしてきたのかもしれませんが,過剰な対策にはツケが伴います。

 ツケは,質問者の酷い発言として帰ってきました。簡単に言えば,「自分で商売していない科学者が安全といっても何の意味もないんだよ。実際に安全かどうかではなく,消費者は風評に流されて買わなくなるんだよ。」です。「言う資格がない」という何様ぶりはともかく,内容は平田座長の言っていることとあまり変わらないのが皮肉です。

 つまり,デマや誤解に基づいた「不安」や「安心」でも,その誤解を解くことなく,受け入れて対応するのが商売なのだと言っちゃってます。確かに,商品ではなく幻想を売るのが商売というのはある意味で真実ではあります。しかし,宝くじなら良くても,食品に関しては無条件に認めるわけにはいきません。幻想の暴走を許すと「安心」のために安全を犠牲にしかねません。少なくとも平田座長は暴走を食い止めようと努力しているように見えます。しかし,豊洲市場の過剰な安全対策のため,本当に必要な築地市場の対策が出来なくなれば暴走でしょう。

 かつてのBSE騒動で似たようなことになりました。全頭検査が安全上は無意味なことがわかっていながら,消費者の安心のために莫大な費用を投じて行ってしまいました。一旦行ってしまうと,簡単には止められなくなり,国が辞めても,自治体はいつまでも続けていました。また,国際的には米国よりも国産牛のほうが危険性が高いという評価にもかかわらず,米国産牛肉の禁輸措置という滑稽な事態にもなりました。消費者の安心感情とは不思議なもので,不安なはずの米国産牛肉を使った牛丼が食べられなくなりそうだとなると,吉野家に行列が出来ました。本当に危険なレバ刺しが禁止されると,闇ルートの商売が繁盛したりします。一部の神経質なひとは別にして,大多数の消費者の安心とか不安なんて,軽い気分なんです。その軽い気分が商売には馬鹿にできない影響を及ぼすのは確かですが,商売人自身がその影響を増幅させて長い目で見れば,自分の首を絞めていることも気づいた方がいいと思います。

 消費者の安心料は莫大な金額になります。それでも安全はお金には代えられないと言われて歯止めが効かなくなり,本当に必要な安全対策が犠牲になり,そして対策をやればやるほど,穢れのイメージが強化されて,悪循環に陥ります。BSE防疫,放射能除染,ベンゼン浄化,穢れの浄化は途方もない金食い虫です。豊洲移転の停滞によって損なわれた,あるいは損なわれかねない安全について評価してみる必要があると思います。専門家会議でやってもらえませんか。