都政改革本部の特別顧問

都政改革本部 豊洲市場や五輪会場の入札に疑問 抜本的見直し必要
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161128/k10010787311000.html#

4回目となる東京都の都政改革本部では、都の特別顧問で作るプロジェクトチームが、いずれも落札率が99%を超えている豊洲市場と4年後の東京大会の競技会場の入札制度の妥当性などについて、検討状況を報告しました。

この中で、豊洲市場については、1社のみの参加による入札などで競争性に疑問があるほか、1回目の入札が不調に終わったあと、参加業者へのヒアリングを行い、予定価格を再積算した結果、価格を一気に1.6倍にし、2回目で落札していることから合理性に疑問があると指摘しています。これについて、財務局の担当者は「国の方針にのっとり対応した」と応じていました。

また、東京大会の会場のうち、1社のみが入札した海の森水上競技場は、入札した業者の提案を都の職員のみで採点・決定し、公正性に問題があるとしたほか、2社が入札した有明アリーナは、8億円低い価格を提案した業者が技術点で劣ったとして、最終的には高い価格を提案した業者が落札したことについて、制度の信頼性に疑問があるとしています。これに対して、財務局の担当者は「入札は適切な結果だ」と応じましたが、特別顧問は「抜本的な見直しが必要だ」と指摘しました。

都の特別顧問は「売り手市場」という言葉を知らないのだろうか。この時期,建設業界は多忙であり,採算の取れない仕事を受けたくはないのである。それが,豊洲市場の1回目の入札が不調になった理由である。やむを得ず,都は業者にヒヤリングを行い,予定価格を増額し,しかも,その予定価格を事前公表し再入札を行ったのである。その結果,応札者は1社のみで,落札率は99%超えとなった。必然である。

 おそらく,ヒヤリングは数社に行ったはずで,その中の最低額を参考に予定価格を設定したのであろう。その予定価格が事前に公表されたとなると,結果はだれでも予想できる。ヒヤリングで最低額を提示した社が応札し,ほかの社は採算が取れないので辞退するに決まっている。これは,談合が行われていないということを意味する。もし談合が行われていた以前ならば,取る気のない社もお付き合いで入札に参加だけはしたであろう。

 この結果のどこが不合理だろうか。先ず,予定価格の事前公表がダメである。入札は価格交渉なのに,手の内をばらしてどうするのだと言いたい。予定価格を事前公表するようになった理由は,予定価格を探ろうとする不正な動きの防止というわけの分からないものである。気密漏えいという犯罪をなくすために,機密漏えいを合法にしたという信じられない理由なのであり,合理的理由は全くない。
https://www.pref.gifu.lg.jp/shakai-kiban/kendo/nyusatsu/11656/sintyaku.data/yoteika-jizenkouhyou.pdf

 二番目に予定価格が無意味である。予定価格とは発注者が適正な価格を設定できるという前提で成り立っている。高値を吹っ掛ける業者に引っかからないようにこれ以上は支払わないという適正な価格を事前に決めておくのがその目的である。本来の支払い額の上限は,買い手が工事成果物に認める価値である。売り手の原価は知ったことではない。しかし,価値判断を客観的に決めることは難しい。公共的な調達では客観性が求められるので,売り手の原価から予定価格を設定するという次善の策を採用している。これは簡単に言えば,相場を算出しているのである。相場とは類似の商品が有る場合の概念であって,他に例のない商品に相場はない。売り手の言い値にならざる得ず,結局,買い手がその言い値を支払う価値があるかどうかの判断で契約の成否は決まる。

 豊洲市場のような場合は相場が存在しない。特殊な施設であるし,建設物価も高騰しているという状況である。従って,都は業者にヒヤリングをしたのである。仮に,その言い値が莫大で予算をオーバーするほどなら,発注は出来ない。原価に基づく価格が都の認める価値を上回ったことになる。しかし,そうはならなかったので,その言い値を予定価格にして形式的に入札をしただけである。実質的な価格交渉はヒヤリング時点で終わっているのだ。入札は規定上やらざるを得ないので行っているセレモニーに過ぎない。

 現在では,特殊な大型工事の予定価格というのは,ほとんどセレモニーのようなものである。発注者が適正な価格を算出することなど出来るはずがない。現実には,定価のない特注車の価格交渉のようなことをするしかないのである。建設工事でもネゴシエーション方式の導入ということが言われており,その単純なものが都が行った業者へのヒヤリングである。単純すぎて,業者の言い値をそのまま受け入れているに過ぎないが,これ以上の合理的名案があるのなら,特別顧問にご教示願いたい。公共の発注では「かけひき」はやりにくく,私には思いつかないからだ。

 入札の落札率や1社応札というおまけに過ぎない現象を見て不合理というのは簡単である。そして,おまけをもっともらしく見せる名案ならある。官製談合によるヤラセをすればよい。複数社が応札して,落札率も好きに設定できる。

 問題は,根拠のない予定価格に対する落札率や1社応札ではない。発注者が出来もしない予定価格の設定を行っていることである。坪単価○○万円という相場のある一般的な建物でなおかつ建設物価が安定している時期ならそれらしい落札率になるだろう。しかし,そうでない時期には入札不調,不落,逆に低入札となるのは,今に始まったことではない。何十年とそのサイクルを繰り返しているのである。

 また,海の森水上競技場についていえば,価格だけで決める入札ではなく,提案も評価する総合評価落札方式であろう。最低額でなくても提案の評価が高いなら落札できる方式である。「そんな,方式は駄目だ。最低額を落札者とせよ」という総合評価落札方式を否定するのも一つの見解ではある。もし,そういう見解なら,「業者の提案を都の職員のみで採点・決定し、公正性に問題がある」などは蛇足である。さらに,「高い価格を提案した業者が落札した」という結果を理由に「制度の信頼性に疑問がある」と言っているのは,総合評価落札方式でも最低価格の者が落札するものと考えているようで,何も理解していないと思わざるを得ない。