戸籍名に付随する情報

旧姓使用、なぜ認められなかった 判決読み解くと…
http://digital.asahi.com/articles/ASJBC4TCTJBCUTIL02Z.html?rm=901
判決は、結婚前の姓より戸籍上の姓のほうが「より高い個人の識別特定機能をもつ」と述べた。

 私の父親は婿養子だったので、旧姓を通称として使っていました。自営業だったので、禁止する上司も組織もなく、自由でした。官公庁への書類は戸籍性を使っているのは当然ですが、それで特に個人の識別特定機能に支障はなかったようです。いや、「特に」どころか、全く支障はありませんでした。

 旧姓使用を認めない判決理由の「より高い個人の識別特定機能をもつ」は大いに疑問です。学校のクラスや職場に同姓がいるのは良くある事で、そういう場合は、愛称の類の通称で区別します。通称の方が状況に応じた識別特定機能が高いのじゃないでしょうか。そういう実用面ではなく、全国レベルで重複がないという厳密な個人識別という点でも、戸籍名には同姓同名がいくらでもあるので、通称と同等でしょう。その意味での識別特定機能が高いのはマイナンバーで、個人の識別特定機能を重視するなら、マイナンバー使用強制も合法としないと辻褄があいません。また職業によって、通称、ペンネーム、芸名、しこ名、源氏名が普通です。落語家が本名だとむしろ仕事上支障がありそうです。

 実は、戸籍名がほとんど使われていない世界があります。人間の世界ではなくペットの世界ですが。ジャパンケンネルクラブなどが発行する血統証に記載してある名前が、人間の戸籍性に相当します。洋犬の場合は、長たらしい外国語で、姓と名もあります。日本犬の場合は風流な和名がついていますが、飼い主が血統書の名前を使うことは血統書の申請以外では無いといってよいでしょう。いや物好きもいますので断言はできませんが、個人的にそんな飼い主に遭ったことは生まれてこの方まだありません。大抵は言いやすい呼び名を使いますが、混乱や支障が生じることは一切ありません。できれば、血統書も呼び名にした方が良いと私は思います。でも、「綾小路きみまろ」とか「Pablo Diego Jose Francisco de Paula Juan Nepomuceno Maria de los Remedios Crispiano de la Santisima Trinidad」みたいなのが、威厳があってよいと考える人がいるのか、呼び名と血統書名が両方あるのが現状です。

 血統書名が存在するのは、個犬の識別特定機能に優れているからではなく、もったいぶった名前の方がふさわしいという気分的なものではないかと思います。もう一つは、血統つまり血筋です。実は、人間の戸籍名の本当の理由もそれに近いのではないかという気がしないでもありません。しかし、それでは判決理由として都合が悪いので、「より高い個人の識別特定機能をもつ」なんていっているだけじゃないでしょうか。そもそも、「より高い」なんて相対的理由で通称使用を禁止することができるのでしょうか。戸籍名でなければ識別不可能というのなら納得できるのですが。

 芸名を考えればわかりますが、通称は仕事などの対人関係で都合がよいので使いますが、官公庁への届け出などは戸籍性でも構いません。本当は夫婦別姓で戸籍名も旧姓が良いのですが、妥協案として、原告の女性教師は「生徒や保護者など、外に向かっては旧姓使用を求めるが、内部的な資料については戸籍姓でも構わない」と言っています。これに対して学校側は「内部資料では旧姓を認めるが、それ以外は戸籍姓、もしくは戸籍姓と旧姓の併記しか認めない」と主張しているそうです。

女性教諭が「旧姓」使用求めて裁判に…「戸籍姓しか認めないのは時代に逆行」
https://www.bengo4.com/c_5/n_4727/
裁判では、双方から和解案が示されている。女性は、生徒や保護者など、外に向かっては旧姓使用を求めるが、内部的な資料については戸籍姓でも構わないとしている。一方、学校側は内部資料では旧姓を認めるが、それ以外は戸籍姓、もしくは戸籍姓と旧姓の併記しか認めないとした。双方の意見は平行線を辿っており、和解が難しい状況だ。

 私は、管理上、内部的な資料には戸籍姓を記載しなければならないが、それと対外的に使用する姓が異なると混乱や間違いの原因になるという理由で学校側は旧姓使用を認めたくなかったのだと思っていました。ところが、上記の主張ではそうでは有りません。教師も学校も二つの姓を使うことは認めています。さらに、内部的資料はどちらでもよく、外部的な対人関係で伝える情報が重要だという点では一致しています。違いは、外部に伝える情報が個人に関わるものか、家柄や姻戚関係なのかです。つまり、誰の妻であるかの識別性です。なぜか、夫には求められていない情報です。