豊洲市場は欠陥設計という批判について

豊洲市場》売り場の床 強度不足
http://www.jcp-tokyo.net/2016/0318/133201/
尾崎氏は、商品やトラック、フォークリフトなどの重さで床が抜けるのではないかとの市場関係者の声を紹介。水産仲卸売場の1階の耐荷重は、1平方メートルあたり700キロにすぎず、氷詰めの鮮魚の入った発砲スチロール箱を築地市場のように12段積み重ねると、1平方メートルあたり1トンで設計仕様を上回るとし、「箱の置き方を規制するのか」と質問。

 今年の3月の赤旗の記事です。その後、床の補強を行ったという話は聞きませんので問題なかったのでしょう。そうなると、平米1トンという数字はどこから出てきたのか気になります。それを直接調べる手立てがないので、独自にどの程度の重量になるのか調べてみました。

 探してみると、実験による箱の許容荷重がメーカーのHPにありましたので、それを使って計算してみます。

発泡スチロール製品の強度保冷性能テスト
http://www.toho-eps.com/technology/inspection/
 
 TK・150Z 内容量15.9L 外寸 430×325×166H(mm)、内寸 385×280×150H(mm)の箱の場合、

段積輸送許容重量(側面強度):10段積みでトラック輸送した場合、8.3kg
単体運送許容重量(底面強度):トラック輸送した場合 、37,2kg

となっています。
段積輸送許容重量とは、トラックに段積み積載して輸送する場合に、EPS容器に収納できる内容物重量の上限です。この場合、トラック走行時の衝撃を3G(重力)と設定してあります。これから、平米あたり荷重を算出すると、

 8.3kg×10段÷(0.43m×0.325m)=600kg/㎡

 違う大きさの箱3キロVHだと、内容量8L、外寸 486×323×82H(mm)、内寸 442×280×67H(mm)
段積輸送許容重量(側面強度):20段積みでトラック輸送した場合、4.5kg
単体運送許容重量(底面強度):トラック輸送した場合 、28.3kg

4.5kg×20段÷(0.486m×0.323m)=570kg/㎡


トラック走行時の衝撃3Gを考慮した値なので、静置ならこの3倍になりますが、いずれにせよトラック輸送しなければならないので、この程度が上限でしょう。人間が積み上げる高さ(10段×0.15m=1.5m)としても限度と思われます。


 以上は、箱の許容重量から床に加わる上限荷重を計算したものですが、箱に物理的に詰め込める上限荷重も計算してみます。

 内容量15.9Lで、鮮魚と砕いた氷を詰めれば、クラッシュアイスの実積率を60%として、16kg×0.9×0.6=8.64kgとなり、偶然、8.3kgに近い値になりました。実積率60%は、コンクリートの粗骨材の実積率に準じました。

内容量8Lの箱だと、8kg×0.9×0.6=4.32kgとなって、ほぼ4.5kgです。

 以上から、700kg/㎡を見ておけば十分かと思います。実際には床一面に箱を並べるのはありえないのでもう少し軽くなります。




 さて、ここからが本論ですが、床抜け疑惑は1月ごろから騒いでいる人がいました。

☆大拡散希望☆【豊洲・床抜け疑惑part2】市場としての機能を果たせない建物は廃棄するしかない!
http://togetter.com/li/921706

 この、togetterで指摘されているのは、鮮魚の箱の他に水槽があります。水槽といっても金魚鉢とは違って建物に固定されたものです。こういうものは、積載荷重700kg/㎡とは別枠で計算します。いわゆる固定荷重で建物自体の自重、備え付けの機器類などと同じ扱いをします。それに対して、積載荷重は人や家具、物品類で変動のある確率的荷重です。従って、この指摘は全くの見当違いです。普通ならばですが。

 しかし、入居するテナントが水槽類を設置する場合は、積載荷重として計算するしかありません。そして、入居するテナントが行うテナント工事の条件としてその荷重を示すことになります。この条件を守らなければテナントの責任になるのは言うまでもありません。

 入居テナント未定の貸しビルの場合は、このようにするしかなく、その結果、責任範囲が明確になります。それに対して豊洲市場では入居予定テナントが確定していますので、設計者が後のテナント工事で追加する荷重をヒヤリングして建物本体の設計が可能です。テナントが協力的ならそれで何の問題もありません。ところが、移転反対のテナントがいて、ヒヤリングに非協力的だと、想定荷重で設計せざるを得ません。その結果、テナントから設計荷重が少なすぎて床が抜ける欠陥設計だと批判されたような状況です。

 施主が希望や条件を示さずに依頼した設計に対して、希望を満たしていない欠陥設計だとクレームを言っているようなもので、普通はこんなことはありえません。ところが、施主の一部は移転反対というのが豊洲市場の状況です。設計者の対処は、貸しビルの設計と割り切るしかありません。建物本体の設計荷重を上限としてテナント工事の追加荷重を指定して、責任をテナントに渡すわけです。責任は回避できても、反対テナントは欠陥設計という批判をするでしょう。

 さて、移転反対は施設の設計や建設前からあって、その理由は当然ながら新しい建物とは無関係です。例えば、交通・物流アクセスが悪い、土壌汚染問題などです。その後、施設の設計が行われると、使いにくい、欠陥設計であるという批判が加わりました。でも、考えて見れば反対する人は移転する気もない施設の設計に協力する気持ちにはならないでしょう。その結果、反対する人の意向が反映されない使いにくい施設になるのも当然という気がします。そして、それが反対の理由に加わるわけです。これは仕方がないことかもしれませんが、欠陥設計やら、手抜き工事やら批判される設計者や建設業者はとんだとばっちりという気がします。
豊洲市場のような政治的紛糾案件についての、技術的批判は相当の政治的フィルターを通したものだと疑うべきです。多少なりとも建築に関わっているものからすれば、くだらない批判が多すぎます。