記憶はあてにならない

豊洲、都報告書「事実と異なる」 技術会議元委員が証言
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016100601001916.html

豊洲市場(東京都江東区)の建物下に盛り土がなかった問題で、土壌汚染対策の工法を検討した「技術会議」の複数の元委員が6日までの共同通信の取材に、都の検証報告書で「技術会議が建物下に作業空間を確保する必要があると提案した」とした点は事実と異なると証言した。都が報告書の修正を迫られる可能性があり、検証の在り方が問われそうだ。
 元委員の長谷川猛・東京都環境公社非常勤理事は「技術会議で作業空間を提案したことはないのに都が既成事実化しようとしている」と話した。

 豊洲盛土騒動では、記憶に基づくあやふやな情報が飛び交っています。歴代の東京都幹部の証言に始まり、代表格は石原元知事のケーソン提案があります。これに、技術会議元委員が加わりますます混乱に拍車をかけそうです。

 長谷川氏は、「技術会議で作業空間を提案したことはないのに都が既成事実化しようとしている」と話したそうですが、技術会議の記録には残っているのですね。第9回会議資料「報告書の構成について」に記載があります。*1

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/gijutsu/siryo/9-6-2.pdf

 あくまで、検討過程の提案と書いてあり、最終的な報告書には見当たりませんが、提案があったことは確かじゃないでしょうか。自己検証報告書の書き方も「第9回技術会議の事項」となっていて、最終的な提言という説明ではありません。

 犯罪捜査でも、関係者の証言は食い違うことは普通です。記憶に基づく証言や自白はあてにならないので、物証や記録が決め手になります。メディアは記事を書かないと商売にならないのでしょうが、こういう取材はほどほどにしないと、混乱と誤解を拡大するばかりだと思います。

 物証や記録が示しているのは、当時は地下ピットは極秘事項でもなんでもなく、会議の記録にも、資料の説明図にも、設計図書にも記載されているのです。建築の専門家でない関係者も全く目にしていないということは考えにくいですが、あまり関心が無ければ記憶にも残らないでしょう。もし、安全を脅かすもってのほかの提案だという認識なら覚えているでしょうが、大して気にしていないから記憶から消えてしまったのではないでしょうか。つまり、地下ピットが危険だという認識は誰もなかったという気がします。人間の記憶の話ですからあくまで想像ですが。

 ところが、小池知事が地下ピットを問題にし始めてから、地下ピットは安全を脅かすものというイメージが報道によって作られてきました。当時の関係者はそんなものに関わっていたとは思いたくない心理になるのは当然で、もともと関心も薄く、記憶も怪しげなところに、その心理が働くと、「地下ピットの話なんかまったくなかった」というニセ記憶が形成されても不思議はありません。私自身、よく経験します。

*1:HPに急遽、追加されたため、ねつ造が疑われていますが、そのレベルになると何とも言いようがありませんし、決定機関でもない技術会議に責任を押し付けても東京都の責任がなくなるわけでもないでしょうに。http://mainichi.jp/articles/20161007/k00/00m/040/118000c