最初の説明と違うと何が問題なのか,そもそも違っているのか

 豊洲市場盛土騒動については,技術的に問題ないとしても,最初の説明と違うのが問題,あるいは,発注品と納入品が違うという意見がある。この意見は,建築工事の実態を知らないがための勘違いである。いや,建築の実態を知らなくても,少し考えればわかる単純なことである。

 最初の説明とは,盛土を説明したマンガに過ぎない。いうまでもなく,設計図でもない。マンガで工事は出来ないのである。このマンガで説明しているのは,次のことだけである。原地盤面から2mの深さまで掘削して,砕石を敷き,現地盤面から2.5m上まで盛土して,その高さを設計GL(グラウンド・ライン)にするということだけである。基本的に,これは建物の外部の外構のことである。建物は,基礎をGLより下に根入れ(埋め込む)しなければならないから,盛土の厚さは4.5mより薄くなるのは当たり前である。マンガの説明図のように,外構のアスファルト舗装と同じ厚さのコンクリート基礎などということはありえない。このマンガは建屋の説明図ではないから,適当に描いてあるだけだ。建築に限らず,説明用のマンガはプレゼンテーションで使うだろう。そこで,説明している要点が実際と異なるのは許されないが,分かりやすくするため,要点以外は省略やデフォルメが行われる。

 このマンガと実際が違うというのなら,他にも違うところはいくらでもある。屋根の形が違うだろうし,窓がないのも変である。建物形状も実物はこんな単純ではない。設計図ではないし,建物の説明図でもないのだから当たり前である。

 さらに言えば,外構のアスファルト舗装部分も4.5mの盛土がない部分はあちこちにある。なぜなら,側溝や排水桝などが随所にあり,それらはアスファルト舗装よりも深く埋め込まれている。建物も規模の大きい排水桝のようなものだ。

 次に,発注品と納入品について言えば,マンガでは発注出来ない。契約用の設計図書は数百枚が必要である。設計図書と工事完成成果品が異なれば,検査不合格で引き取りは出来ない。そのような場合を「発注品と納入品に違い」がある契約違反というのである。

 考えてみてほしい。設計図書がマンガのように,アスファルト舗装と同じ厚さのコンクリート基礎しかないのに,実際の建物には4.5mもの地下ピットがあるということがあり得るのか。そして,そのことに誰も気づかないことが。

 確かに,建設業といえば手抜き工事のイメージがあり,設計図書と違うことは頻繁にある。しかし,それは,手抜きの方が安上がりであり,簡単だから行うのである。単に盛土することと,地下にコンクリートピットを作るのでは圧倒的に後者が金がかかる。盛土を地下ピットにするのを手抜きというのは,平屋,100㎡を,2階建て200㎡にすることを手抜き工事というようなものだ。そして,この「手抜き」に気付かない施主がいるであろうか。

 あまりに,くだらないことで騒ぎすぎるという感想しかない。可能性としては私の知らない,地下水位汚染対策の極めて専門的なことで瑕疵が全くないとはいえない。ただし,そのような専門的なことについては,今騒いでいる人は私以上に理解できていないだろう。