純血種

ブルドッグが危機、遺伝的に似すぎ
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/080200285/

 私の親はいくつかの仕事をしていましたが、畜犬商もしていました。今風にいうとブリーダーです。今は違うと思いますが、当時はちょっと怪しげな商売でした。血統書付きの純血種しか売り物にはならないのですが、純血種は、見ていて気の毒になるような犬がいました。鼻のつぶれた狆やブルドッグは鼻息が荒くいかにも息が苦しそうでしたし、チワワは小さくてひ弱で、うっかり踏みつぶしてしまいそうでした。狆やペキニーズは、目を傷つけやすく、白濁した眼の犬がよくいました。目が大きいからです。短毛犬は皮膚病になりやすく、ヨークシャー・テリアは歯がボロボロになっているのをよく見ました。大型犬は足を痛めやすかったと思います。以上は私が子供のころから見聞きしていたことですが、それ以外にも近親交配を続けた純血種にはさまざまな遺伝病があるようです。

◆犬たちの悲鳴 〜ブリーディングが引き起こす遺伝病〜
http://blog.goo.ne.jp/grandemperor/e/37128d5faed8aeba5660411a3eb08ba3

 純血種の中には健康上の問題以外にも、断尾と断耳というお気の毒な運命があります。尻尾をちょん切ったり、たれ耳を切って整形して立耳にする習慣です。元々は、実用的な意味があったらしいのですが、現在では、見た目だけの理由で行われています。ちなみに動物愛護の英国では当時から禁止されていました。ですので、英国から輸入されたグレート・デンはたれ耳で、ドッグショーには出せません。でも種雄として使えました。当然ながら、私の親もやっていました。プードルをメインに扱っていたので、尻尾切りはよく見ました。残酷だなと思いましたが、親は「生後間もないころは痛みを感じない」とかなんとか言ってました。しかし、当の子犬は尻尾を切られると、キャンキャン鳴いていましたので、怪しいものだと思いました。

 近親交配や断尾・断耳は人間ならありえない虐待ですが、動物の場合は微妙です。なにしろ、食べちゃうこともあるくらいで、もっと酷い虐待を普通に行っています。動物園に閉じ込めたり、無理やり競走させたり、実験動物にしたりします。動物愛護家は許しがたい行為だと糾弾しますが、人間と動物は対等ではないので、なかなか難しい面があります。奇妙なのは、動物好きな人が、珍奇な風貌を「カワイイ」と愛玩して、近親交配の需要を作り出しているところです。

 また、人間と同じ権利を与えられても彼らは困ります。犬を人間扱いする愛犬家もいますが、犬がそれを喜んでいるかどうかわかりません。なにしろ言葉が通じないので犬の真意は不明です。近親交配でいろいろと問題を抱えたブルドッグはかわいそうで、祖先の姿に戻してあげたいと私は思いますが、ではどの時代に戻すかという問題があります。もはや犬には野生種は存在しないからです。程度の差はあれ、何らかの人間の手が入ったのが犬であり、完全な野生だと狼になってしまいます。ドッグショーで評価されるスタンダードは馬鹿げていると思いますが、他の動物のように自然に戻すこともできません。少なくとも、狼よりは純血種の犬の方が、人間の良い相棒です。魅力的な純血種もたくさんあります。

 ところで、品種改良の類が極端に向かうのは生物の本性のような気もします。クジャクは別に人間が作り出したわけないですからね。その本性は人間自身にも向けられていて、ファッションでは歩きにくいだけでなく、健康にも悪いハイヒールがセクシーだと人気です。肉体改造では、纏足やウエストを細くするために肋骨を取る手術なんてのまでありました。頭を変形させたり、首を伸ばしたり、唇を大きくする習慣もあります。入れ墨にピアス、ボディビルもその要素があるんじゃないでしょうか。マンガのデフォルメされたキャラクターがカワイイという感覚は現代が盛りです。これらから類推すると、犬の純血種がなくなる事はなさそうです。私自身、馬鹿げていると考える一方で、魅力を感じるのも事実です。ただ、中庸と違って、極端は定量的に考える必要がなく単純なだけに、強力に推進されやすいので、要注意かな。