69年周期説は否定されたけれども

地震の確率、太平洋側で軒並み高く 予測地図16年版
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGG09H2W_Z00C16A6000000/

 確率の教科書を読むと,独立事象と従属事象という言葉が出てきます。独立事象とは,例えばサイコロを2回振ったときに,最初に振った結果が2回目の確率に影響しないことです。1回目が裏なら,次は表が出やすいと考えるのは,独立事象を従属事象と取り違えた初歩的な誤解です。一方,地震の確率は過去の出来事の影響を受ける従属事象と考えるのが主流のようです。地震はサイコロの様に単純ではないので,簡単には言えませんが,果たして従属事象なのでしょうかね。ちょっと疑問です。

 「全国地震動予測地図 2016 年版 付録 1 補足解説3.確率論的地震動予測地図」
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/16_yosokuchizu/h_5_1.pdf

確率論的地震動予測地図では、一般に、その評価基準日が更新されると、更新過程による地震が前回評価以降に発生しない限りはその発生確率が年々着実に増加するため、特にカテゴリーⅠの海溝型巨大地震の影響を受けやすい太平洋岸の地域を中心に、年々着実に、地震動の超過確率も増加する。更に今回は、新たな長期評価結果の反映やモデル化手法の一部変更の影響も加味されている。但し、それらの地図全体への影響は比較的軽微である。

 どのような確率モデルになっているのか知りませんが,前回の地震発生からの期間に応じて確率が上昇するようになっているのだと思います。これは,コインに例えると,最後に表が出た以降の振った回数に応じて表の確率が増えるモデルに相当します。裏が出るごとに,表になるエネルギーが蓄積され,表が出るとそれが解放されるというような周期的イメージです。間欠泉同様に地震も感覚的にはそんなイメージがあって,南関東地震の69年周期説は一般にも広く知られていました。しかし,現在では周期説は否定されています。

 確かに,一つの断層に付いてであれば,周期は有りそうです。ただし,その周期は数千年から数万年というスケールで,69年とはかけ離れています。そもそも,69年周期説は鎌倉での震度5以上の強震の記録から導き出されたものです。これらの地震は内陸型もあれば,海洋プレートで発生したものもあり,千年から数万年という様々な周期(それがあったとして)の地震の記録です。個々の断層地震に周期があったとしても,多数の異なる周期のものが重ね合わされれば,一様に発生することはなく,ランダムなコイン投げに近づくのではないでしょうか。たまたま周期があるように見える期間もあるかもしれませんが。

 実際的な目的,例えば,自分の家の耐震性の判断のような場合は,無数の断層が影響する一つの地点の地震について考えることになります。それも人間の一生という期間でです。その程度の期間では,平均発生間隔から相当ずれて発生しても不思議ではありません。実際にも関東大震災以降の南関東の震度5以上の地震は全く69年周期ではありません。

 引用した補則解説には,「特にカテゴリーⅠの海溝型巨大地震の影響を受けやすい太平洋岸の地域を中心に、年々着実に、地震動の超過確率も増加する。」とあります。これは,そういうモデルになっているというだけで,実際にそうなるということではないと思います。仮にそうだとしても,ある地点に大きな被害をもたらす地震は海溝型巨大地震だけではありません。熊本地震は内陸型です。

 さて,予測地図16年版では,確率が下がった地域もあります。低下に応じて,地震対策を緩めることはあるのでしょうかね。もし,確率が上がった地域では,対策を厳しくするのなら,確率が下がった地域では対策を緩めなければ首尾一貫しませんが,どうかな。緩めて良いと言うほどの精度は保証できないけど,安全側に用心するに越したことはないということじゃないかな。