絶対値とは正の数や負の数の符合を取り除いたもの???

 「掛け算順序」に引き続き,「絶対値は正の数ではない」が話題になっている模様です。私自身は「掛け算順序教育」を受けた経験は全くなく,大人になって知って「そんな馬鹿な」と驚いたのですが,「絶対値」については思い当たることがあります。

 子どもの頃,「絶対値とは正の数や負の数の符合を取り除いたもの」というような説明を受けた記憶があります。この説明では,正の数+5の絶対値は5となるわけですが,じゃあ+5と5の違いは何なのだと結構長い間悩んでしました。絶対値とは正の数とも負の数とも異なる新しい数の概念のような気がしたわけです。でもその概念がどういうものかさっぱり分からず,悶々としていました。

 おそらく,当時の先生は「絶対値は正の数ではない」と考えていたのではなく,教える時に「符合を取り除いたもの」と説明する方が簡単だったのでそう教えていただけと思います。絶対値の意味を教えるのではなく,マニュアル的に絶対値を作り出す操作手順を教えたわけです。計算手順を示す操作的定義に似ていますが,この場合は計算手順ではなく,「符合を取る」という掟破りの手順でちょっと違います。例えれば,

「2+1は8の左半分を消したもの」

みたいな教え方です。1+2の計算ができなくても答案が掛ける「素晴らしい」方法ではありますが,メタというかナンセンスというか。純真無垢な少年は無駄に悩んだのでした。

 時が流れ,今では,子どもを悩ますだけでなく,どうやら当の先生までおかしくしてしまったようです。先生の場合は,立場上悩んでいるそぶりは見せられませんから,自信をもって「絶対値は正の数ではない」と教えているのでしょうか。教え方って馬鹿にできませんね。