2016/3/17 コンクリート関係告示改正のパブコメ回答

 この3月17日にコンクリート関係告示改正の公布が行われた。それに先立ちパブコメが行われ質問や意見とその回答概要も示された。その中で「設計基準強度との関係において安全上必要なコンクリートの強度の基準を定める件」についての質疑に興味深いものがあった。今回の改正とは直接関わる質疑ではないが,よくある「はぐらかす回答」と私は感じた。意見と国交省の考え方は次の通りである。

パブリックコメントにおける主なご意見】
【告示第一第2号に規定される材齢 28 日までの場合の設計基準強度
について】
近年のコンクリートの圧縮強度は、材齢 28 日以降に強度の伸びが大きくなるものもあり、材齢 28 日の供試体の圧縮強度の平均値が設計基準強度の 7/10 未満であっても、材齢 91 日の供試体の圧縮強度の平均値では設計基準強度以上になる場合が多い。
そのため、材齢 28 日における設計基準強度の平均値について 7/10以上という規定を削除してはどうか。

国土交通省の考え方】
材齢 28 日の供試体の圧縮強度の平均値が設計基準強度の 7/10 未満であっても、特別な調査又は研究の結果に基づき構造耐力上支障がないと認められる場合については、第1ただし書に基づき、使用することが可能です。

 コンクリート強度関係告示の「0.7倍規定」については,不要という意見が昔からあり,当ブログでも過去に述べている。

意味不明のコンクリート強度の告示
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20140406/1396764376
公共建築工事標準仕様書の二転三転
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20140407/1396860139

そこで,詳しくは過去記事を参照していただくことにして,今回は,例によって「たとえ話」を作ってみた。

【MLIT社の前泊規定】
 
東海道新幹線開通以前,東京ー大阪間の所要時間は最速6時間30分であった。東京本社の午後一番の会議に大阪支社から出席するには,前泊しなければ遅刻の可能性が大きく,MLIT社は「前泊しなければならない」という規定を設けていた。言うまでもないが,前泊そのものが重要なのではない。肝心なのは,午後一番の会議に遅刻しないことである。

 その後,新幹線が開通し,車両の改良も進み,会議当日に大阪を出発しても十分間に合うようになった。しかし,前泊規定は存続していたため,社員の一人が前泊規定廃止の意見を上申した。これに対しての本社総務部の見解はつぎのようなものであった。

「特別の調査研究によって,前泊しなくても,会議運営に支障がないと認められる場合には,規定のただしがきにより前泊しないことが可能です。」

 つまり,規定は廃止しないということである。この判断に,件の社員は悩んでしまった。「特別の調査研究って,具体的にどうやって示せばいいのか?」半世紀以上昔とは違い,現在では,前泊しないことで会議運営に支障がないことは特別の調査研究などしなくても分かりきっているのである。ならば,特に何も示さずに前泊しないことが可能なのであろうか。だとすれば,前泊規定は実質廃止されたといえる。にもかかわらず,形式的に規定を存続させる意味は何なのか。

 その意味については一つの解釈がある。極めて官僚的な組織では,「無謬主義」というものがある。誤謬はあってはならないし,あるはずがないというものである。この「主義」によれば,むやみに規定を改定したり廃止することは,以前の規定が間違っていたと認めることになり,すべきではないのである。実害が生じるような規定はやむを得ないので改正や削除が行われるが,アクロバチックな解釈を駆使してそのままにしておけるなら出来るだけ触らないのである。その結果,全く使われない化石のような規定が生き延びているのだ。これも「伝統」というのかどうかは知らない。