免震重要棟,オフサイトセンター,防災拠点施設

 「免震構造」にまつわる楽しくない思い出があります。防災機能を持つ建物の計画で,「免震構造にすべし」との上からの命令を受けました。しかし,敷地や地盤条件から免震構造は最善とは言えないと考え反対しました。ですが,上からの返事はNOでした。理由は,「免震構造によって防災効果を世間にアピールでき,予算も付く。」です。上の立場になるほど,技術的判断よりも,政治的判断が勝るのは世の常です。免震でなければ耐震性能が落ちるという世間のイメージは無視できなかったのでしょう。あれから随分経ちますが,今,電力会社は免震構造にしないことで批判されています。この場合,技術的理由があるのかないのかはよく分かりません。少し考えて見ました。

 原発に付随する免震重要棟の機能は「免震」ではなくて,「緊急時対策機能」です。電力会社もそのように説明しています。その対策とは,シビアアクシデント対策というものです。緊急時に対策を指揮するための電源や通信機能を備え,また水,食料,燃料を備蓄しているとのこと。これらから,想像するには,人間が寝泊まりできて,関係各所と連絡し,指揮ができる空間を確保できればよさそうです。イメージ的には,大きな会議室,通信室,宿泊室,備蓄倉庫などで,原発設備そのものではありません。原発設備そのものでないのなら,耐震性のランクは低くても構わないといえば構いません。

 しかし,原発設備が地震被害を受けた場合に使える必要があることを考えれば,原発設備より高い耐震性が求められます。しかし又しかし,原発設備は最高ランクの耐震性を備えていますから,それは不可能です。どうすればよいでしょうか。

 原発の「緊急時対策機能」に類する機能を持つ施設に防災拠点施設が有ります。防災拠点施設は,一般施設が地震被害を受けた場合にも無被害か軽微な被害で,災害対応活動ができる必要があるので,耐震性を高くします。逆にいうと,一般施設の耐震性能は相対的に劣り,非常に大きな地震の場合,被害を認めていることを意味します。ちなみに,原発ならぬ一般施設でも壊れるのは納得出来ないという人は無視出来ないほど存在します。そう言う人も了解するように,一般施設も防災拠点施設並に丈夫に作って被害を生じないように何故しないのでしょうか。一応説明すると次の様になります。

 もし,無尽蔵に資源を投入できるのなら一般の建物も防災拠点並に丈夫に作れます。しかし,現実には資源は有限であって,他にも使うべき用途が沢山あります。建物だけに資源を投入してしまえば,他の安全対策が不十分になり,総合的には安全性が低下します。そこで,ある程度の被害は受け入れて,被害が生じた場合の対応を考えておこうというわけです。そのための施設が防災拠点施設で,数的には地域に数箇所あれば良いので,予算処置も現実的に可能です。一方,一般施設は膨大な数が有るのでそれは無理です。

 さて,最高ランクの耐震性の原発地震被害を受けたときでも,無被害である施設というのは不可能ですので,原発に関しては防災拠点施設的なものは無理があるように思えます。しかし,それは確定論的な考え方をしているからです。実際には地震被害は確率現象ですので,最高ランクの耐震性でも被害は有り得る一方で,低い耐震性の建物が無被害で有ることもあります。従って,通常は複数のバックアップを備える多重性である程度対処可能です。ただし,同じ性質のバックアップだけでは,一つの原因で全滅する可能性が高いので,異なる性質のバックアップで全滅の可能性は低くした「多様性」が重要になります。非常用電源は商用電源だけでなく,自家発電,バッテリーなど多様にします。

 「緊急時対策機能」を執行する空間を確保するのは建築物です。その建築物の耐震上の多様性で最も効果的なのは,敷地を変えることです。敷地が違えば,地震の大きさも津波の高さも違います。例えば,防災司令室が地震被害を受けた時のバックアップの部屋を同じ建物に作ってもほとんど無意味です。通常は,離れた敷地に設けます。実際にも霞ヶ関が使えないときの予備は江東区有明や立川にあります。

 原発の「緊急時対策機能」を持つ建物も原発サイト内に建設するよりも,どこか別の敷地に建てた方が有効に思えます。実はそう言う施設としてオフサイトセンターが既に存在します。免震重要棟とオフサイトセンターの違いもよく分かりません。もちろん,敷地内でも,ないよりは有った方が安全性は高まりますが,お金の使い方として有効なのかは疑問ありです。結局,情報が少なくて,結論はだせませんが,「免震構造」であるか否かよりも,基本的なことがあるのは確かです。