「等式変形」

 ウィキペディアの「×」に次のような記述があります。

×30 は30倍の拡大図や、等式の両辺を30倍する等式変形を表す。30× は30倍の倍率を持つレンズを表す。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%C3%97

 拡大図やレンズの倍率はそれぞれの業界の表記上の慣習かと思いますが,「等式変形」は少し違和感があります。中学校数学教育業界の専門用語で,おそらく,等式の両辺に同じ操作をするという意味だと思います。なぜか等式の両辺を30倍する「等式変形」は「×30」と限定していて,「30×」がありません。

 これは,30倍とは「いくつ分」ですので、右側から「×30」としなければならないという「掛け算順序ルール」の影響というのは考えすぎですね。いや,どうかな・・・

・・・「等式変形」では「両辺を30倍して・・・」という言い方をする。しかし,「順序ルール」では「倍」を式の右側に書く「いくつ分」に限定している。「ひとつ分」はかけられる数であり,「倍される」のであって,「倍する」ものではないからだ。よって,例えば,次の式を変形して,「a=・・・」にする場合は,「両辺を30倍して」と表現してはいけないのである。

 (1/30)×a=1

 「30倍」なら,下式の様に右側に書くべきである。 

 (1/30)×a×30

 しかし,これは「(1/30)×30×a」とは意味が違い,30を約分して「a」に変形できない。従って,こういう場合は,「両辺を30倍する」のではなく,「ひとつ分の30を,両辺倍する」と表現し,下式のようになって目出度く,「a=・・・」に変形できるのである。

 30×(1/30)×a=30×1
 a=30

「面倒くさい」と言うなかれ。「順序ルール」に拘るなら,この程度の厳密さは必要である。しかし,少々複雑な次の式を「a=・・・」に変形するにはどうすればよいであろうか。

 a×(1/30)×b=1

 この場合は,先ず次の変形を施す。

 a×(1/30)=1/b

次に両辺30倍する。いきなり30倍してはいけないのである。式の変形にも順序というものがあるのだ。

 さて,上の式変形でも出てきたが,「等式変形」には「両辺を○○で割る」という変形もある。最初の式,

 (1/30)×a=1

 を変形する場合,両辺を「1/30」で割ると考えてもよい。この場合,「1/30」は「ひとつ分」なので包含除ということになる。

 (1/30)×a÷(1/30)=1÷(1/30) (包含除)

 一方,a×(1/30)=1 からaを求めたい場合は「等分除」で行わなければならない。

  a×(1/30)÷(1/30)=1÷(1/30) (等分除)

 この両者は当然ながら意味が違う。ところが式の表現はどちらも右側に「÷(1/30)」となっている。「順序ルール」といっても現状は不徹底なのである。本来は,割り算でも「等分除はいくつ分に続けて,また包含除はひとつ分に続けて÷30と書く」とでもすべきである。「ひとつ分」と「いくつ分」の掛け算に対応した割り算の表記は「等分除」と「包含除」に応じて変えるべきだ。割る数と割られる数の順序が変えられないのは,掛け算でいえば「積」と「ひとつ分」や「いくつ分」を入れ替えられないに対応していて,全く別の話なのである。「順序ルール」はいまだ未完成で発展途上であり,関係各位の奮闘を期待する・・・・


 ・・・実にばかばかしいですね。a×bという簡単な式にしか,「順序ルール」なんてものは強制できず,「等式変形」を行う様な複雑な文字式ではとてもやってられません。出来るとこでやっているだけです。「歩くときは,右足からルール」はゲン担ぎの元旦の最初の一歩で行うのは自由ですが,一年中そんなことを気にしていられません。しかし,馬鹿にしているだけだと,関係各位の奮闘の成果が現れそう。