全地点ボーリング

国交省の傾斜マンション有識者会議メンバーに要注意!

要するに「LaLa横浜」の工事では、杭を打つ全地点でボーリング調査が必要だったのです。
http://www.nikkeibp.co.jp/welcome/welcome.html?http%3A%2F%2Fwww.nikkeibp.co.jp%2Fatcl%2Fsj%2F15%2F150245%2F102700025%2F

 細野透氏の肩書きは建築&住宅ジャーナリストで工学博士、一級建築士だそうですが,実務には詳しくないと見えます。私も,設計しなくなって久しいのですが,杭を打つ全地点でボーリング調査するなんてのは初耳です。ちょっと考えられません。

 ちなみに,どの程度の本数を行っているかの国交省の調査がありますが,「建築面積5000㎡以下では8割が3本以下,建築面積1000㎡以下では半数が1本」となっています。これは少なすぎるかもしれません。最低2本は必要でしょう。
http://www.mlit.go.jp/common/000041325.pdf

 日本建築学会の資料では,建築面積100〜500㎡に1本程度です。実態調査でも20本以下がほとんどです。

 先ず言えることは,地盤調査結果を基に設計して,杭の位置や本数が決まるのですから,最初のボーリング調査時点では杭の位置は分かりません。

 ただ,必ず全地点で行えとは細野透氏も要求していません。凹凸が多い地下地形の場合に行うべきと言っています。しかしですね,凹凸が多い地下地形かどうかはボーリングしないと分からないのですよ。普通,敷地周辺の既存調査を参考に,ある程度の凹凸の見当を付けて,調査本数を決めます。調査の結果,予想以上に凹凸が激しければ,追加調査しますが,この時点でも杭の位置は未定ですから,杭の全地点調査は無理です。

 結局,一旦設計が終わらないと,全地点調査は出来ません。設計後に全地点調査を行うと,相当の期間を要し,工事の発注が遅れます。現実には,すぐに工事を発注し,実際の施工結果から,長さを変更するのが普通でしょう。また,全地点調査したからといって確実とも言えないのです。なぜなら,ボーリングの孔径は小さいので,それほど正確ではないからです。いずれにせよ,実施工して確認が必要なのです。

 可能な範囲で事前調査は詳しく行った方が良いのですが,実施工でしか確認できないことも多いのです。例えば,耐震改修工事では,仕上げ材を撤去しないと構造材の詳しい状況は分かりません。かといって,調査時点では建物を使用していて仕上げを撤去することも出来ません。そのため,ある程度の想定で設計し,工事着手後に確認して,必要なら設計変更をしなければなりません。仕上げの裏側や地面の下などの見えない箇所の詳しい状況は実施工で確認するしかないのです。

 この事件の問題点は,事前調査不足ではなく,現場での確認と設計変更をしなかったことでしょ。