100年に1回の大雨

【9/30追記】いろいろと間違いがあったので,書き直しました。以前の文章は勘違いの見本として見え消しにしておきます。

鬼怒川の堤防はなぜ決壊したのか
 http://www.huffingtonpost.jp/tatsuo-furuhata/kinugawa_b_8205184.html
ここで、100年に一度ということばを使うと、次に大雨が来るのは100年後というように感じる。しかし正確には、1/100年とは、「1年のうちに発生する確率が1/100(1%)の大雨」を意味する。

1年のうちに1/100年確率の降雨が発生しない確率は 1-0.01=0.99となる。したがって今後20年間に1度も1/100年確率の降雨がない確率は(0.99)の20乗となり0.8179すなわち約82%。逆に今後20年間に1度でも降雨がある確率は 1-0.8179=0.1821で約18%となる。つまり1/100年の大雨に耐えるように堤防を作っていても、20年間に20%の確率で大雨による洪水が発生する確率があるということだ。

 あっさりと,「1/100年とは、「1年のうちに発生する確率が1/100(1%)の大雨」を意味する。」と書いてありますが,これは端折った言い方です。「100年に一度」とは「期待値」を表しており,「確率」ではありません。「100年に一度」だから,「確率1%」と短絡的に考えたとしたら間違いです。ある期待値になる確率分布は一つに定まりません。1年間にn回大雨が降る確率をP(n)とすると,100年間に大雨の降る回数の期待値は次のように計算出来ます。

 100Σn・P(n)

これが1回になるP(n)は無数にあります。ただ,今考えているような大雨は年に何回も降ることは考えにくいので,n>=2では,P(n)=0とすれば,

 100P(1)

となります。これが1回ならば,P(1)=1/100 と引用したブログの説明にやっと辿り着きます。

 ここで,一旦整理して,大雨は年に1回降るか,全く降らないかの二つの可能性しかなく,2回以上降ることはないとします。そして,年に1回降る確率が1/100とします。さて,この条件で,「次に大雨が来るのは何年後か?」という問いに答えられるでしょうか?この問は実は曖昧です。

 なぜなら,1年後に来ることもあれば,千年後ということもあり得るからです。1年後でも確率1%で降りますし,19年間降らず20年後に初めて降る確率は,0.99の19乗×0.01すなわち0.8%です。つまり,「次に初めて大雨が降る確率が0.8%となるのは何年後か」とか,あるいは,引用したブログに説明してあるように,「1回でも大雨が降る確率が18%となる期間は」と尋ねなければ答えられません。いずれも20年となります。

 ところがです,引用したブログに「100年に一度ということばを使うと、次に大雨が来るのは100年後というように感じる。」と書いてあるように,曖昧な問なのに答えられるような気がします。おそらく,99年間は大雨はほとんど降らずに,100年目にほぼ確実に大雨が降るというとうなイメージがあるのではないかと思います。これは,コインを1回降ったら表がでたので,次は裏がでるはずだと考える初歩的な誤解と本質的には同じです。そもそも問が曖昧で答えられないのに,勝手に解釈して答えてしまい,さらにその解釈としての答えも外すという二重の勘違いがあります。

 実際には,20年間に1回以上大雨が降る確率はゼロではなくて18%程ありますし,100年間でも100%ではなく,63%(1引く0.99の100乗)にしかなりません。99年間は降らずに,ちょうど100年目に降る確率は,0.37%(0.99の99乗×0.01)でしかありません。

 1年後に来ることもあれば,千年後ということもあり得ますから,答えは一つに定まりません。確率1%なら1年後に降るかもしれませんし,18%なら20年後となるのは,引用したブログに書いてあるとおりです。つまり,答えるためには「次に初めて大雨が来る確率」という条件が必要です。このことは,とりわけ難しい話では無く,納得頂けると思います。

 ところがです,冒頭の引用したブログには「100年に一度ということばを使うと、次に大雨が来るのは100年後というように感じる。」と書いてあります。これに特に違和感を感じない人も多いかもしれませんが,いままで説明したきたことから考えれば,非常に奇妙な話です。「次に初めて大雨が来る確率」を指定しなければ,何年後なのか答えられない筈なのに,100年後と感じるのです。

 おそらく,多くの人は100%という確率を何となく思い浮かべているのではないでしょうか。もちろん100年後でも大雨が降る確率は100%にはならず,63%(1-0.99^100)にしかなりません。100%になるのは,永遠の将来です。二重に誤解しているのです。これは,コインを1回降ったら表が出たので,次は裏がでるはずだと考える誤解と本質的に同じです。にもかかわらず,コインの間違いを馬鹿にしながら,大雨の間違いになかなか気づかない自分がいます。