肝心なことがなかなか出てこない記事

猫を飼うことと統合失調症は関係がある? (調査結果)The Huffington Post
http://www.huffingtonpost.jp/2015/08/31/link-between-cat-ownership-and-schizophrenia_n_8063626.html

論文には次のように書かれている。「子供が青年期後半に統合失調症などの重度の精神疾患と診断された家庭では、その子が幼少期に猫を飼っていたケースが多いことが、三つの研究により示唆されている」
(中略)
その結果、統合失調症を発症した人のうち50.6%が子供のころに猫を飼っていたことが明らかになった。

 これだけでは,統合失調症と猫を飼うことの関係は分かりませんね。統合失調症を発症していない人も50%程度猫を飼っているかも知れませんから。その肝心な情報は,記事の最後の方にさらっと書いてありました。

アメリカで猫を飼っている世帯は30〜37%とされる。いっぽう、統合失調症と診断される人は、人口の1.1%ほどだ。

 これからすると,確かに猫を飼っていた人の方の発症者が多いといえます。どの程度の違いなのか計算してみました。面倒なので,数字を以下の様に丸めます。

統合失調症のうち猫を飼っていた人:50%
アメリカの猫を飼っていた人   :35%
アメリカの統合失調症発症者   :1%

簡単な計算で次のようになります。

猫を飼い,発症せず:34.5%
猫を飼い,発症した   :0.5%
猫を飼わず,発症せず:64.5%
猫を飼わず,発症した   :0.5%

また,

発症しない人のうち猫を飼っていた人:34.8%
猫を飼っていなかった人のうち発症した人:0.8%
猫を飼っていた人のうち発症した人:1.4%

 猫を飼うと,発症が0.8%から,1.4%に倍近く増えると受け取るのか,0.8%も1.4%もわずかで大した違いはないと受け取るのか、それは人それぞれ。

 ところで、条件付確率の錯誤として、がん検診で陽性になった人ががんである確率と,がんである人ががん検診で陽性になる確率を混同することがよく説明されます。この記事にもなんとなくその匂いが漂っています。

 記事の冒頭に「統合失調症と猫を飼っていた家庭で育つことに関係がある」と述べています。次に「統合失調症の発症者の50.6%が猫を飼っていた家庭で育った」と根拠らしきことを述べていますが,これだけじゃ根拠にならないことは前述のとおりです。でも,なんとなく根拠になっているような印象を受ける人もいるんじゃないでしょうか。人によっては「猫を飼っていた家庭で育つと,50%の人が統合失調症を発症する」と勘違いするかも知れません。この勘違いは条件付確率の錯誤とほぼ同じです。