出版談合

皆、遠慮して言わないけど、『火花』が209万部ってどうなの? 篠田博之
http://bylines.news.yahoo.co.jp/shinodahiroyuki/20150812-00048429/

 リンク先の記事は,文学の内容ではなく,プロモーションで売れ行きが左右されることを憂いています。といっても,『火花』が作品としてだめだと言っているのではなく,異常に売れすぎる現象に不安を感じているだけの様です。つまり,内容はともかく出版界全体として,バランス良く多様な図書が売れるべきで,偏りすぎだということなんでしょうか。確かに,書店にベストセラーばかり山積みされ,稀少本が入手しにくいのは困ります。しかし,ベストセラーは希少本を駆逐するのでしょうか。希少本が益々稀少になるのは憂うべきことですが,ベストセラーはその原因になるのでしょうか。

 唐突ですが,建設業の談合を連想してしまいました。談合組織は,業界の均衡ある受注を目的としています。営業で受注額が左右され,一部の業者に受注が集中することを心配しています。大手ゼネコンばかり受注すれば,良い仕事をするけど営業力のない中小建設業者が淘汰されるかもしれません。そうならないように,みんなで仲良く生き残ろうとしているわけです。

 もちろん,談合は禁止されていて,消費者の立場からこのような仲良しクラブは許されませんが,建設業界の立場としては,厳しい自由競争が良質の業者を潰すという面も確かにあります。例えば,伝統的な木造構法の腕の良い大工は絶滅しかけています。しかし,出版界にも同種の心配があるのでしょうか。私にはあるようには思えません。

 建設業では安定した需要がありますが,新規需要は簡単には生み出せません。一方,出版業では,安定した需要はありませんが,ちょっとしたことで大きな需要が発生します。出版物でも教科書の類の需要は固定的なので,パイの奪い合いになり,建設市場と似ています。しかし,大抵の出版物の市場はそういう制限がありません。ベストセラーは普段本を読まない層まで読んでいる面があり,市場を拡大したと言えます。その影響で売れ行きが落ちた出版物があるわけではないでしょう。その一方で,必需品ではないので市場の縮小も有り得ます。

 私には,ベストセラーがどのような弊害を出版社にもたらすかよく分かりません。具体的にどのような影響があって「出版界にとっても素直に喜んでいられる現象」ではないのか思いつきません。だめな本が売れているわけでもないのに,何を心配しているのでしょうか。