ミスリードな研究報道

企業経営者には強いサイコパス気質がある
オックスフォード大科学者の調査結果
http://b.hatena.ne.jp/entry/toyokeizai.net/articles/-/79411

 キャッチ−な見出しです。「企業経営者には強いサイコパス気質がある」と言われると,企業経営者は猟奇殺人でも犯しそうな印象を受けます。それでは,「サイコパス気質」とはどのようなものかと記事を読んでみると,以下のようなものでした。

1 非情さ
2 魅力
3 一点集中力
4 精神の強靭さ
5 恐怖心の欠如
6 マインドフルネス
7 行動力

 猟奇殺人どころか,結構良いイメージです。サイコパスから連想する「倫理観の欠如」や「暴力的」という項目は有りません。これって,サイコパスと企業経営者に共通する気質を選んだだけにも見えます。おそらく介護士サイコパスにだって共通する気質が一つや二つはあるのじゃないでしょうか。そういう気質に「サイコパス的気質」と名付ければ,「介護士には強いサイコパス気質がある」と言えたりしませんかね。

 もちろん,介護士は企業経営者よりもサイコパスとの共通点は少ないでしょうから,そのような名称は妥当とは言えません。じゃあ,上記の7つの気質については妥当かというと,それも疑問で,「サイコパス気質」と呼ぶのは違和感が有ります。どちらかと言えば「企業経営者気質」の方がまだ適当じゃないでしょうか。それだと「サイコパスには企業経営者的気質がある」となって,記事の表題のインパクトがだいぶ小さくなります。企業経営には合法的なものも,ブラックで非合法なものもありますからね。

 また,サイコパスや企業経営者には,7つの気質を持つ者が多いとはいえても,7つの気質を持つ者には,サイコパスや企業経営者になる者が多いとは言えません。なぜなら,サイコパスや企業経営者は稀な存在ですから,このような気質の者のうちさらに多くの条件を満たすごく一部の者がなるだけだからです。そのごく一部の者とそれ以外を区別する気質はサイコパスと企業経営者で違っていそうです。

 サイコパスや企業経営者が満たすべき条件の概念図を下に示します。左側が「条件」で右が人数を表しています。大雑把に言えば7つの気質は必要条件であって,十分条件ではありません。

 企業経営者であり,かつサイコパスであるためには,左図の赤と青の両方の条件を満たしている必要があり,さらに厳しい条件になります。もし,赤と青に背反する条件があれば,企業経営者,かつサイコパスは存在しません。また,人数は,右図の赤と青の共通部分という極めて少数になるか,共通部分が無くなります。確かに,介護士の中のサイコパスの比率よりも企業経営者の中のサイコパスの比率は大きいかも知れませんが,どちらにしてもわずかです。

 気にしすぎかもしれませんが,「企業経営者」と「サイコパス気質」を別のものに置き換えた研究がいろいろ想像出来ます。