色分けの視覚的な効果 ー福島県甲状腺がんの地域差

 前回の記事の続きです。まず復習問題を出します。前回の記事を読んでいる方には簡単な問題です。

【問題】
 全国平均で人口10万人当たり発生数が100人という病気について,とある県の発生状況を調べた。この県の西部と東部にはそれぞれ20の市町村が有る。10万人当たりの発生者数の調査結果を下図に示す。

 東部地方に発生が多いのが一目瞭然。数年前に起きた東部地方の発電所事故との因果関係が疑われる。ところが,東部地方と西部地方の地方別の10万人当たりの発生数を比べるとどちらも100人で同じになる。これはなぜか?

 福島県会津地方の市町村は人口が少ないということに相当する重要な情報がこの問題では隠してあります。従って,この問題だけだと騙される人もいるかもしれません。この問題でも西部地方の人口は少なく,以下に示す表のとおりです。それを見ればからくりは分かります。西部地域の村は人口100人という限界集落で,発生数はほとんどの村でゼロなのです。一つの村で2人発生していますが,これは10万人当たりにすれば2000人という異常な高率になります。といっても異常なことが起きているのではなく,そもそも人口が少ないので,たまたま数人が病気になれば率は大きくなるというだけのことです。発生率はある程度の母数が無ければ,バラツキが大きくなりあまり意味がありません。人口が一人という極端な場合では,発生率は0%か100%の両極端しか有り得ませんからね。

 加えて,色分けの印象操作があります。100人の人口では,発生者1名でも人口10万人当たりでは1000人になってしまい,赤か白の区分のみで,紫,黄,緑,青は有り得ません。赤と白では白がほとんどを占めるのは当然です。さらに,平均以下の区分にも青という色付けをして,本当は発生数が少ない区分なの,視覚的には白との対比で多い地域のような印象を与えています。

 「東部地方に発生が多いのが一目瞭然」というのは図の印象に過ぎません。