一見不必要な要求

 私は,翌朝の目標とする起床時間にほぼ起きることが出来る。ただし,冬場や天気が悪くて暗いと寝坊しがちだ。そこで,朝6時に起きなければならない場合でも,明日天気が悪いと予想した場合は,1時間の余裕をみて,5時起床を目標にして眠りに付く。そうすれば,実際に天気が悪くて,寝坊して5時には起きられなくても6時には間に合うのである。結果的に,6時までに起きることが出来れば問題無い。この起床目標値の1時間余裕を「天気補正」という。

 ただし,天気が悪いと予想して5時起きを目標として,実際には天気が良いと,本当に5時におきてしまい,時間をもてあます。大抵はそうなるが,たまに5時に目がさめないことがある。それでも6時までに起きればスケジュール上は問題はないのであるが,すこしばかり別の心配がでてくる。5時に起きられるはずが起きられなかったのは,睡眠不足や体調不良かもしれないからだ。

 この作り話と建築学会標準仕様書のコンクリートの強度試験は似ている。気温が低いと、生コンクリートが固まって、強度が出るまで時間がかかるが,所定の時期までに所要の強度に達していなければならない。そのため、気温の低い時期には,コンクリートの調合時の強度の目標値を所要の強度より大きくする。この目標強度を調合管理強度という。(実際の調合はさらに製品ばらつきを考慮してさらに上乗せするが,話を簡単にするため,ここでは無視する。)ただし,調合を決めるときの気温は予想気温にならざるを得ない。

 具体的には、養生期間の予想平均気温が8℃以下では3N/m㎡だけ高い調合管理強度にする。ここまでは、建築関係者の常識と思う。次に,コンクリートが固まったら、建築物に打設するときに生コンから抜き出した供試体強度の確認試験を行う。この時の実気温が高かろうが、低かろうが、所要の強度以上であればよいはずである。しかし,実気温によって、合格基準値も違うのである。具体的には、次のようになっている。

 実気温が低い場合:所要の強度
 実気温が高い場合:調合管理強度

 この理由は、建築学会のコンクリート工事標準仕様書の解説にも明確に書いてない。そのため、疑問に思う人がいるが,おそらく,その理由は作り話の起床時間と体調不良の関係と同じである。
 
 予想気温が低くて実気温が高い場合は,設計基準強度よりかなり高い強度が出るはずである。確かに,強度的にはそこまで必要はなく,所要の強度を上回ればよいのであるが,調合計画通りの強度が出ていないのは,製造管理上の信頼性が疑われる。計画通りの調合をしていなかったり,養生が悪いのかもしれない。また,コンクリートに求められる性能は強度だけでなく,耐久性,乾燥収縮性,鉄筋の防錆効果などがあり,それらへの不安もある。従って,所要の強度以上あるのは最低限として,計画した通りの強度も出て欲しいのである。