公共交通機関の安全

国交省 新幹線放火受けJRに警備強化求める NHK NEWS WEB
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150701/k10010134751000.html
先月30日、東海道新幹線の走行中の車内で乗客の男が油のような液体をかぶって火をつけた事件を受けて、国土交通省は、JR東海をはじめ、JR各社を集めた緊急会議を開き、当面の対策として、駅構内や新幹線の車内の巡回の頻度を高めるなどの警備態勢の強化を求めました。

 新幹線の焼身自殺事件で,公共交通機関の安全対策強化がちらほら言われています。ですが,この事件はかなり稀かつ特殊で,そう言うものにまで対策が必要か考える必要があります。単純に安全な方が良いとはいえません。

 公共交通機関を含む公共空間は,他者への信頼で成り立っています。新幹線の隣の席に焼身自殺者が座るかも知れないと心配し出すと,とても利用できません。それは交通機関に拘わらず,公道でも広場でも同じで,無差別殺人犯がいるかも知れないと疑い出すと,家から一歩も出られなくなります。しかし,そう言う事態が絶対に起こりえないとは言えないことは誰でも分かっている筈なのです。にもかかわらず,引きこもりでもない限り,誰もが公共空間に出かけています。それは,そう言う事件は有り得るにしても,非常に稀だと思っているからでしょう。

 ところが,こういうショッキングな事件が起こると,非常に稀とは言えないのではないかと心配になるのですね。今までの認識を改めて対策が必要ではないかという気分になります。報道はそういう気分を助長する書き方になりがちです。問題提起が報道の使命と記者は考えているのでそうなりがちです。

 注意すべきは,本当に治安が悪化しているです。公共空間で異常な自殺を企てるような精神が不安定な人が増えているというデータがあるかです。もし,そうであれば対策が必要かもしれません。ただし,もう一点注意すべきことに,対策には副作用もあるということで,対策の効果と副作用を勘案して決めなければいけません。これは非常に難しいですが,少なくとも,考えて置くべきで,副作用のない対策など無いことは十分理解していなければなりません。 

 対策の副作用とは自由が制限されることで,極端になると戒厳令みたいになります。幸いにして日本は治安が良くその必要もありませんが,世界には他者を常に疑っていなければならない地域もあります。自由に安心して出歩ける社会が良いに決まっていますが,現実に治安が悪くなれば,自由と危険の無法状態か、不自由と安全の統制状態かの選択を迫られます。

 日本は比較的,自由と安全の社会といえると思いますが,総ての面でそうとは限りません。航空機に鉄道並みの自由がないのは,ハイジャックの可能性が比較的高いという現実があるからだと思います。航空機で対策が可能なのは,交通量がそれほど大きくないので,検査に時間をかけられるからです。大量輸送の鉄道では無理ですので,副作用として輸送量が航空機並みに減ることも覚悟しなければなりません。鉄道に対策が必要なら,他の公共空間でも必要でしょう。外出する際には,当局への届出と持ち物検査が義務づけられるかもしれません。

 異常な対策の様に感じられるかも知れませんが,航空機では普通に実施され誰もが受け入れています。本当に治安が悪化しているのなら必要かもしれません。私にはそんなに悪化しているようには見えませんが。