「忘れられた巨人」読みました

 カズオ・イシグロの新作「忘れられた巨人」を読みました。少し物足りない感がありました。何が物足りないかというと、空気感です。音楽でも美術でも芸術に対して私が期待するのは空気感です。時間をかけて考えるメッセージというものもあるのでしょうが、読んでいる時に感じられる空気感が私にとっては第一です。

 物足りなく感じたのは、欧米調のファンタジーという設定が原因のような気がします。個人的にファンタジー一般にステレオタイプの空気感を感じているため、その作品特有の空気感を感じるのを阻害しているのかもしれません。

 空気感とか雰囲気というとりとめのないことはこれ以上書きようがないので、メッセージについて少し書いてみます。著者によるとこの作品はラブストーリーだそうです。確かにそうだと思います。「愛」に危機をもたらすものがない状況から物語が始まり、危機を取り戻していくというような設定で、愛の複雑さを伝えているように思います。危機はないほうがよいのかあったほうがよいのか。それはわかりませんが、危機がないのはファンタジーの世界だけで、現実には存在します。「愛」のほかに「戦争と平和」についても同じようなテーマが混じっているように思います。こういうメッセージそのものは珍しくありませんが、危機を脱していくという通常のストーリーと逆転しているのが面白いところです。

 面白いといっても、メッセージについて読後に理屈で考えた結果です。読んでいる時に感情を刺激する空気感に物足りなさを感じたのは冒頭に述べたとおりです。ただ、ただ余韻のあるラストは別でした。