盤外戦

「奇手」にソフト対応できず 将棋電王戦、棋士が2連勝 ー 朝日新聞DIGITAL
http://www.asahi.com/articles/ASH3L7WJNH3LPTFC022.html
永瀬六段が成れる角をあえて成らずに王手をかける「奇手」を指したのに対し、Seleneがプログラムの不備でその王手を放置して別の手を指す反則を犯した。

 コンピュータが反則負けとは予想もしませんでした。こういうことがあるから面白いです。その一方で,予想外の出来事は,当然の前提が無視されたような不快感を覚えることもあります。その感情は,コンピューターのバグをついて勝つのはフェアでないとか,面白くないという美意識に繋がっています。娯楽として見せる勝負なら面白さは必須ですし,アマチュアスポーツの勝負ではフェア精神が求められます。柔道の山下とラシュワンの対戦のような勝負がその典型です。一方で,職業としての勝負では反則スレスレの創意工夫でしのぎを削っています。えげつない手でも何でも勝たねば生き残れない世界はそうなります。余裕があれば美意識を求めるのも個人の勝手ですが,相手に要求することは出来ません。

 とはいえ,勝負のルール以外に,社会にもルールがあります。ルールには法律のようなものから,礼儀作法の類が有ります。法律となると守らねばなりませんが,礼儀作法になると人によって対応が違います。美意識とはこの範疇に属する精神だと思います。では,棋士の精神がどうであるかというと,不作法な盤外戦の逸話が数多く残っています。しかも「真剣士」ではなく,名人級に多いのですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%A4%E5%A4%96%E6%88%A6

 私が直接見聞きしたのは,ひふみんこと加藤一二三九段で,昔のNHK杯のテレビ中継でも対局者の神経を逆なでするような奇妙な行動をしていました。電脳戦でも「後ろには回らないと思いますが、コンピュータは熱に弱いと聞いてますので電気ストーブを…」と冗談を飛ばしています。(「後ろに回る」の意味が分からない方は,上記のwikipediaをご覧ください。)

 実は,人間同士の対局でマイストーブを持ち込み,対局者に向けたらしいです。
http://2chart.fc2web.com/123.html

 それからすると,コンピューターに電気ストーブも冗談とは思えなくなってきます。コンピューターには「後ろには回る」神経戦が通じませんので,この種の盤外戦がいろいろ開発されるかもしれません。コンピューター(の裏側の人間)と棋士の人間くさい駆け引きに妙に期待しています。