「疑似科学とされるものの科学性評定サイト」で気になったこと

疑似科学とされるものの科学性評定サイト
http://www.sciencecomlabo.jp/

■総括的な感想

 大学が疑似科学を取り上げ,サイトを作ったことに賛意を表します。その上で,気になった点を述べます。

 先ず「活動概要」に「科学性の程度をおしはかる試みを行っています」とあります。意欲的な挑戦だと思いますが、程度を推し量る定量評価は極めて難しいのではないかと思います。学問として、長期的に取り組んでいくつもりなら別に異論は有りませんが、一般社会への実用的情報提供という目的にはそこまでの必要はありません。後者の目的としては、いわゆる疑似科学批判があります。人によって差はありますが,概ね,ウソで社会的に害を及ぼすものに注意を促しています。しかし、その程度を評価するという高難度のことは必要もなく,していません。EMと血液型性格判断のどちらがより非科学的かなど、簡単に言えることではないからです。

 どのくらい科学的であるかという視点は、むしろ疑似科批判批判者が良く持ち出します。科学と疑似科学といっても、程度問題で,疑似科学も科学も同じようなものだというような批判批判です。決着の付かない線引き論争の泥沼に引き込みうやむやにしようとします。疑似科学批判は高尚な哲学や科学論という学問ではなく,「社会に被害をもたらす科学もどきに注意」という注意喚起ではないかと思います。評定サイトは,学問なのか注意喚起活動なのかはっきりしません。言葉使いは硬くて報告書風で,学問のような趣ですが,内容は大ざっぱな概説的で,一般への注意喚起目的のようでもあります。仮に疑似科学批判と同じ注意喚起とした場合の問題点を以下に述べます。

■「評定」と「判定」

 前段にも述べたように,「評定」という概念は疑似科学の「判定」には必要ありません。「評定」とは,ボーナス査定やカラオケ採点のような定量的評価です。この種の評価では複数の評価要素があり,それらを総合して総合評点を出します。総合評点は各要素点の合計であったり、あるいはもっと複雑な関数で表されたりします。例えば、歌唱力はリズム感や音程などの要素を総合したものと考えれば、総合評価という手法を用いるのが妥当と言えます。歌唱力や業務成績に応じて賞金やボーナスを与えるという目的があるので、このような総合的定量評価が必要になるわけです。

 一方,「判定」というものもあり,例えば有罪無罪の判定です。量刑の判断では複数の要素を総合化する合わせ技もありますが、有罪、無罪の判定だけなら,一つでも法に反する行為があれば可能です。制限速度を守り,安全運転を心掛けていても,無免許ならば道路交通法違反で有罪です。入試は各教科の総合点による「評定」ですが、足切り点による「判定」が併用されることもあります。1教科でも、最低点に達しなければ不合格と判定されます。

 疑似科学であるか否かは通常,「評定」ではなく「判定」です。科学であると認められる必要条件を設定し、それを満足しないにもかかわらず科学であると称していれば疑似科学と判定するのが普通だからです。(この部分はもう少し厳密に考える必要があり後述します。)ですが、評定サイトでは,なぜか「評定」が採用されています。

 世の中には、「判定」が適当と思われる場合でも「評定」が採用されているケースは多く有ります。例えば、自動車雑誌の車の評価です。デザインや運動性能などの要素を総合評価してあるのですが、個人が実際に車を選ぶ場合は、殆ど一つの要素で決めることが多いと思います。デザインを重視する人はデザインが気に入らなければ、その時点で候補から外します。デザインで優劣が付けがたい場合に、次に重視する要素について比較判断します。つまり、足きり評価を連続して行っている場合が多いのです。自動車雑誌の総合評定は個人ユーザーには殆ど役に立ちませんが,要素評価は参考になります。

 「評定」と「判定」について,整理しておきます。
 
 「評定」:科学であるためには,総合評点が○○点以上なければならない。
      総合評点は,要素点Miの関数f(M1,M2・・・)で表される。
 「判定」:科学であるための必要条件は,M1,M2・・・・である。

 評定,或いは合格判定の場合はすべてのMiが必要ですが,不合格判定では一つでも満足しない条件があれば判定できます。なお,科学でないからといって,必ずしも疑似科学とは言えません。

 実は、評定サイトの「総評」も総合評定をしているようには見えません。9つの条件の評価すべてが述べられているのでもなく,総合化の処理が行われているのでもありません。主要な条件の要点を再記述して,感覚的に最終分類をしています。場合によっては,9つの条件のどれにも該当しない理由で分類しているものもあります。例えば,βカロテンは「科学的成果が一般市民に伝達できていないという意味で「発展途上」と評定する。」となっています。

 この様な状況ですので,9つの条件の評価から最終分類(「科学」,「発展途上の科学」,「未科学」,「疑似科学」)を判断する基準も示されていません。そのため,矛盾めいた評定もあります。下に示した評価の一覧表を眺めてみると,例えば,電磁波有害説は,高2,中2,低5で疑似科学ですが,念力は,高1,中2,低6しかなくても未科学の評定を得ています。

 また,ESPは,高3,中2,低4ですが,未科学に留まっています。低評価なのは理論と応用性ですが,理論が未完成でも効果が実証されているなら問題ないのではと思います。そして,実証性を示すデータの観点は高い評価で,効果は実証されていると読める記述です。記述や条件の評価と,未科学という分類は整合していないと思います。

 他には,磁石磁気治療は,高0,中5,低4で未科学ですが,電磁波有害説は,高2,中2,低5で疑似科学となっています。高評価よりも低評価を重視しているのかもしれませんが,その考え方は不明です。

 以上,諸々から実際の最終分類は9つの条件以外の判定的判断で行われていることが推測できます。

疑似科学であることの条件が明確ではない。

 常識的には,芸術は科学ではありませんが、疑似科学でもありません。通常は,科学でないのに科学であるとウソを付くことを疑似科学と呼んでいます。つまり、科学でないことは疑似科学の必要条件ですが、十分条件ではありません。従って、科学ではないことを確かめる必要はありますが、決定的な条件は社会的なウソがあるかです。しかしながら、評定サイトでは、科学でないことの判定を重点的に行っているものの、肝心のウソの検証が不十分という感が免れません。疑似科学問題は科学の問題というよりも社会的問題なのです。ウソを考慮していないため違和感のある評定があります。占星術や手相術が疑似科学になっていますが,科学であると自称している占い師がいるのでしょうか。占いと言っているだけなら疑似科学とみなす人はいないのではないでしょうか。

 また,ウソは,人がつくのであって,研究対象がつくわけではありません。従って,疑似科学の判定は誰の主張であるかを抜きには出来ません。ところが,評定サイトでは、例えば「コラーゲン」という研究対象で分類して検証しています。コラーゲンの研究者の中には、まっとうな研究をしている人もいるかもしれません。ですから、疑似科学の判定では、研究対象のような大きな主語ではなくて、個々の研究主体が問題になります。評定サイトが想定しているのは、コラーゲン製品を販売している企業の研究だということは、推測は付くのですが、そこは明確にすべきと思います。疑似科学批判はウソの主張をする「人」に向けなければならないからです。

 実際上は対象を示せば提唱者がほぼ特定出来る場合もあります。例えばEM菌ならば比嘉照夫氏と分かります。しかし,有機農業,や水ビジネスはくくりが大きすぎます。
 
■科学でないことの条件が明確でない
 
 疑似科学判定の必要条件として、科学でないことの判定も必要なので、評定サイトはそこを重点的に解説しています。ただ、判定条件が曖昧です。そのため,前述したような矛盾めいたものがあります。評定サイトでは、「4つの観点、9つの条件」を提示していますが、これらのうち一つでも満足しなければ科学ではないというわけではありません。例えば、「ホメオパシー」の効果の主張が科学的でないのは、科学的ルールに従った十分な臨床データが無いからであって、理論の不備はおまけに過ぎません。もし十分なデータで効果を示せれば、理論は無くても構いません。このあたりの条件の扱い方が明確にしてありません。

 とはいえ、常識的に条件の扱い方は察しが付きます。「理論」の条件は、理論を提唱する説の判定のためであって、薬の効果のような現象を提唱する説の判定のためではないでしょう。理論の主張の場合に「論理性、体系性、普遍性」に欠けていれば科学ではないと判断するということだと思います。しかし、本当にそう判断してよいでしょうか。それは、単に未熟な「仮説」というだけかもしれません。各分野の学会ではその種の未熟な「仮説」が無数に発表されていますが、それは科学ではないと言えるでしょうか。評定サイトでは,「発展途上の科学」や「未科学」は科学ではないような印象を受けますが,そうだとしたら,完成した科学しか科学ではないことになりますが,完成した科学は存在しません。

 評定サイトが行っていることは,「科学の説」の完成度を評価して,それを以て,「科学の営為」であるか否か判断しているように見えます。しかし,「科学の説」と「科学の営為」を区別する必要があるんじゃないでしょうか。通常は,「科学ではない」という言い方は、「科学の営為」について言っているのであって、「科学の説」について言っているのではないと思います。「科学の説」には認められた定説の他に、まだ検証途中の仮説、既に間違いと棄却された説などいろんなレベルのももがありますが、「ラマルクの獲得形質遺伝説」は科学ではないという言い方はしません。また、「獲得形質遺伝節を提唱したラマルクの営為は科学ではない。」とも言いません。

 評定サイトの「発展途上の科学」や「未科学」という分類も、「営為」なのか「説」なのか判然としません。評定サイトが実際に行っているのは,「説」の完成度評価のようですが,これらの言葉から私が受ける印象は「営為」に近いものがあります。歴史的な科学の発展段階が思い浮かびます。「未科学」は古代社会の呪術や占いを。「発展途上の科学」は思弁的な哲学から分離して実証科学に向かう段階のようなものをです。これらは、「営為の方法」を意味しており、個別の説の完成度ではありません。そして,疑似科学判定に必要なのは,「営為の方法」つまり,科学のルールに従っているかではないでしょうか。つまり,検証出来ていない仮説や既に否定された説を認められた説と称するのは科学の営為に反しますが,検証出来ていない仮説や予想を提示したり,新しい分野を開拓することは科学の営為と言えます。


■一般の人は,総評の結論しか読まないのではないか

 専門家ではない,一般の人が,9つの条件の評価を全部読むのはつらいのではないでしょうか。記述は網羅的,概説的でその根拠まで示されていませんので,腑に落ちて読み進めることができません。詳しい人はピンと来るかもしれませんが,分かっている人だけ分かる記述になっています。例えば,有機農業についての記述「ただし、差しあたって日本においては農業全体に対する主に政治的な介在によって、恣意的な結果が報告されやすい土壌にある。」は,具体的にどんな政治的介在があるのか知らないと,頭に残りません。

 さらに疑似科学判定に必要とは思えない記述もあります。例えば,念力について理論がまだ無いという記述がありますが,理論の有無は疑似科学判定に直接関係しません。判定する上で決定的な事柄にメリハリを付けて記述した方が,分かり安くなります。「水からの伝言」であれば,沢山の写真から,きれいな結晶ができたものだけ恣意的に抜き出しているというトリックを説明すれば十分かと思います。


■その他,個別に気になったこと

1.社会的観点は,ダブルカウントになっている。「公共性」は,社会的にオープンな仕組みが設けられているかを評価しているが,実証的効果を示すデータの観点の「透明性」,「再現性」に同じ内容がある。

2.幽霊のデータの再現性に「体脱体験や臨死体験はたびたび報告されており、ある程度の再現性はある。」という記述があり,中評価になっている。しかし,体脱体験や臨死体験は別の説明が可能な現象であり,幽霊の存在を確認する現象ではない。私自身も子供の頃には,体脱体験や金縛りは良く経験した。未確認飛行物体の目撃例が異星人の飛行物体の再現かどうか分からないのと同じである。

3.幽霊の社会への応用性に「死後の世界が、多くの宗教思想に取り入れられ、個人の不安を取り除いたり、社会の安定を促したりする効果を形成するのに、一役かっている。その点では、役に立っていると言えなくもない。」とあり,中評価となっている。これは,ウソや勘違いでも結果的に役に立てばよいというもので,そういう考え方はあるにしても,疑似科学ではないとする理由としては受け入れがたい。ホメオパシーでもプラセボ効果について,同趣旨の記述があるが,低評価となっている。

4.UFOの社会での公共性に「もし宇宙人が存在してUFOに乗って地球に飛来しているのならば、現代社会ではそれを確証できる態勢が整っているという意味で、公共性は高いと評価する。」とある。態勢が整っているとはSETIプロジェクトのことを指していると思うが,SETIプロジェクトと目撃されたUFOが宇宙人のものであるという説は全く無関係である。

5.電磁波有害説のデータの透明性に「非電離放射線に健康への悪影響があるかどうかを判定するに、信頼のおけるデータが集まってきていると判定できる。」とあり,高評価になっている。電磁波有害説を裏付けるデータではなく,検証出来るデータが集まって来ていることを以て高評価にするのは腑に落ちない。検証出来るデータすら無いよりはマシという判断かも知れないが,電磁波有害説を否定する信頼のおけるデータも,高評価になるのは奇妙である。他にホメオパシーなどでも,同様の疑問がある。

【2/7追記】

 はてブクマコメントでOSATOさんからレーダーチャートにすれば分かりやすいとの助言がありましたので、作ってみました。
 赤は疑似科学
 オレンジは未科学
 緑は発展途上の科学



【2016/3/17追記】

 aaaaさんのコメントがあったので,科学,疑似科学,宗教などの分類整理表を作ってみました。