伝統を変えないために,仕事のやり方を変える

 前の記事に関連する話です。
 出世に係わる評価は,大半が予測であるという点が難しいところです。予測は大体外れますから。実績で評価すれば良いようにも思えますが,実際は程度に差はあれ予測が入ってきます。なぜなら,出世すれば今までと違う仕事をしなければならないからです。かつて,次の様な俗説を聞いたことがあります。「実績を上げれば出世し,能力を超えたところで出世は止まる。かくして組織はいずれ役職に見合わない人間で埋め尽くされた無能集団という末路を迎える。」実際は,降格をすればそうはならないと思いますが,昇格の人事が難しいことは確かです。

 ボーナス査定のようなものは,純粋に実績評価のようでいてそうでもありません。たまたま運が良く好成績を納めたのかもしれませんから,仕事の態度のようなものも評価されるからです。評価される態度というのは,将来的に成長し,役に立つという予測が入っています。また,ボーナスという褒美を与えることで,さらに頑張ってくれるだろうという予測も入っています。

 この予測は過去の経験からの類推です。定時に帰宅し育児をするような社員は大した働きをしないとか,残業をする社員は業績を上げるというような類推です。今までと同じような体制で,周辺環境も同じならば,この類推はある程度信頼出来ます。しかし,体制を変えればどうなるか分かりませんし,体制を変えなくても周辺環境つまり社会が変化していきます。

 この様な変化に鈍感であると,頭が古いと言われますが,かといって変化に応じた新しい予測評価は非常に難しいです。何しろ,変化を予測し,その変化に応じた評価法はどんなものが良いかを予測しなければならず,二重の難しさがあります。結局,実態は試行錯誤ではないかと思います。試行錯誤とは,やって見た結果で判断するのですから,実績で評価することになります。ところが,実績評価には予測が入らざるを得ないという,最初に戻ってしまうわけです。

 とはいえ,試行錯誤もしないというのではその内淘汰されるでしょう。伝統を重んじる老舗も,伝統を変えないために仕事のやり方は常に変えています。なんとなく「赤の女王仮説」っぽい。