民間のお役所仕事

お役所でバイトして分かったこと
http://anond.hatelabo.jp/20090916185052#

具体的にどんな無駄が多いのかというと、「自分たちが不正を働いていない証拠を作る仕事」が異様に多い。

 お役所仕事は,ISO9000sと似ている所があります。日本では品質管理の実態的手法であるTQCやTQMが発達していました。これに加えて最近ではて欧米発祥のISO9000sも企業や官庁で採用されています。よく言われることですが,ISO9000sでは品質は向上しません。品質向上を望むのならTQCやTQMの類を実行する必要があります。では,ISO9000sは何の為にあるのかというと,品質管理がある一定レベルにあることを,第三者の認証機関が認証し顧客に示すものです。そのため,ISO9000sではトレーサビリティを考慮して膨大な書類を作らなければなりません。トラブルや訴訟沙汰になったときに,適正な品質管理を行っていたという証拠にするためです。

 お役所仕事も証拠書類作成に大きな労力を費やします。公共工事を受注した建設会社の現場代理人さんは,提出書類が多いことにウンザリすると言います。中小企業で職人気質の代理人さんは特にそう感じるようです。要は高品質な工事という結果を示せば良いのに,無駄としか思えない書類作成を求められる理由が理解できないとのぼやきを聞くことが有ります。

 でも,一概に無駄とも言い切れません。個人住宅の普請では,基本的に建て主が了解すればそれで終わりです。しかし,公共工事では,役所の担当者が了解すれば終わりというわけには行きません。なぜなら,担当者は施主の代理人に過ぎず,施主である納税者が最終的に了解する必要があるからです。説明は多段階に渡り,先ず役所の担当者は会計検査院等に説明します。会計検査院はその結果を国会等に報告します。国会が了解してやっと終わりです。

 会計検査院は現場を見ることもありますが,基本的には書類検査です。そのために無駄としか思えない書類を作らされるわけです。同じようなことは,訴訟の場面になれば民間企業でも必要になって来ます。訴訟への敷居が低くなっていることがISO9000sが導入されている一つの要因かもしれません。

 このような証拠書類作りというかアリバイ作りを無駄と見るのか,必要なものと見るのかは微妙な所があります。取引では信用があれば大幅にコストを削減できます。信用が無ければ証拠作りに膨大なコストが必要になります。住民がお役所を信頼すればコストは減らせますが,たいていの場合信用していないようなのでコストが必要になります。中国の食品産業は,毒入り餃子事件以降,監指カメラを設置するなどコストをかけています。お役所も中国企業程ではないにしても信用がないということでしょう。

 ただ,証拠作りにもレベルがあります。適正に施工されたという工事写真を整理しておくようなことは当然必要なことです。しかし,切手代が適正支出であることを示す為に,一々申請書を書かなければならないとなると,100円が不正支出でない証明のために,申請側と鑑査側の数万円の人件費を使うという馬鹿げたことになります。実際に何処かの国立大学の教授が嘆いていたような記憶があります。

 それに,アリバイ作りのような仕事ばかりしているとモチベーションが下がるという弊害が出ます。アカウンタビリティという言葉が言われるようになる以前からお役所では「説明できるのか」と問われることが非常に多くありました。「その仕事に意義がある」,「その費用は無駄ではない」と説明できるのかということですので,重要なことではあります。ところが,元の「意義のある仕事」や「無駄をなくす」に労力を注ぐことなく,説明ばかり考えているような状態になりがちです。更には,「意義がなさそうだけど,上手く説明できないのか」とか「無駄をしてしまったけど,上手くごまかせないか」という本末転倒に至ることもあります。アクロバチックな言い訳をひねり出すような仕事もないとも言えません。その一例が法令の杓子定規な解釈や一転して法網をかいくぐるような解釈です。

 早稲田大学の論文不正調査委員会の報告書は正にそんな印象があります。早稲田大学はお役所ではありませんけど,お役所に働く外圧と同じような「何とかならんのか」という圧力が掛かれば反応は同じになるということだと思います。