学校のエアコン

千葉市、小中学校エアコン却下 議会「耐える能力必要」
http://www.asahi.com/articles/ASG6T5QTYG6TUDCB01G.html
 
 千葉市教委の試算では、対象となる計175校の教室に必要なクーラーは2800台分で約76億円。本会議に先立って請願を審査した12日の教育未来委員会では、自民党議員が「環境への適応能力をつけるにはある程度、耐える能力を鍛えることも必要だ」と発言。共産党を除く全会派が「老朽化したトイレの改修を優先すべきだ」などを理由に反対に回っていた。

■鍛錬の為は後付

 限られた予算で優先度が低いと言うのは理解出来ますけど,耐える能力を鍛えるためという理由は説得力を感じませんね。自分たちの時代になかったから今の子供にも必要ないと思っているだけで,鍛える為なんてのは後付の理由臭がします。自分たちの時代にエアコンが無かったのは,耐える能力を鍛えるためではなくて,そもそも昔はエアコンが存在しなかっただけでしょ。出回ってからも高価で予算が足りなかっただけじゃないかな。

 昔はエアコンだけでなく色んなものが有りませんでした。エアコンが駄目なら照明も駄目でしょう。暗い環境にも耐えられる能力を鍛えることも必要と言えます。理屈は同じです。もっと言えば建物そのものも駄目です。サバイバル能力を鍛えるため青空教室かテント教室にすべきというのも同じ理屈です。

■教育なら計画的に

 耐暑能力を鍛える教育の一環だというのなら,体育の訓練同様にトレーニング計画に基づいて行う必要があります。何も考えず四六時中劣悪な環境に晒すだけでは教育とは言えません。筋力トレーニングだって,適度な負荷と休養を取る必要があって,むやみに負荷を課す大リーグボール養成ギブスの発想では,効果がないどころか,体を壊すことになります。飛雄馬も肩を壊しました。あれは原因が違ったかな。それはともかく,暑い環境にいれば暑さに耐えられる様になるという科学的根拠があるのでしょうか。

 確かに,春先から暑さに体を慣らしていく暑熱順化という方法は有りますが,そのような計画的な訓練を学校がしているようには見えませんね。それに馴化とは慣れに他なりませんから,止めれば元に戻ります。低酸素の高地順応と同じで競技に向けて行う意味はあっても,教育としての意味が有るんですかね。そんなことより体育の時間に汗をかく運動をして汗腺機能を鍛えた方がマシでしょう。

■法令違反の疑い

 建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令に定めのある「建築物環境衛生管理基準」によれば,特定建築物(学校も含まれる)の温度環境は17度以上28度以下となっています。大人の使う事務室の基準であって子供の使う教室は対象外と考える人もいるかも知れませんが,そのようなただし書きは見あたりません。仮に大人だけの基準だとしても教室は先生もいる労働環境ですから,法令違反の疑いがあります。(ちなみに28度以下は環境省の省エネ政策との関係で微妙な値です。労働環境なんてのはあまり気にしている人はいないので,実態はザル法かもしれません。ましてや子供の生活環境なんて・・・)

■軍隊のいじめに似たり 

 学校教育には軍隊や昔の英国パブリックスクールのように,生活全体をスパルタ環境にする発想が残っています。しかし,軍隊や昔の全寮制男子校の実態は陰湿ないじめ(昔といってもリチャード・ドーキンスの時代にも残っていたと自伝に言及があった)であったわけで,教育効果は有りませんでした。強いものが生き残って,弱いものは潰されただけです。そんな伝統を引き継ぐ必要はないと思います。

■他の自治体では

 文科省の調査では,公立小中学校の普通教室・特別教室の空調設置率は平成26年4月1日時点で29.9%です。

公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況調査の結果について
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/05/__icsFiles/afieldfile/2014/05/23/1348060_01.pdf

 一例として,神戸市では学校教育環境向上の一環として普通教室における空調設備の導入を進めているそうです。

神戸市立小学校空調整備PFI事業にかかる「特定事業の選定」及び「入札公告」について 
http://www.city.kobe.lg.jp/information/press/2014/06/20140624844101.html