美味しんぼはメンタルケアではない

原子力発電所事故と怒り
http://www.huffingtonpost.jp/arinobu-hori/story_b_5422216.html

 上記記事は,被害者のメンタルケアの留意点を述べているだけかもしれませんが,美味しんぼを擁護と紙一重です。メンタルケアでは「ウソも方便」ということで,デマの美味しんぼ擁護になりかねません。

 精神的なトラウマでこころが傷ついている人に対して,「ウソも方便」を認めるかはプラセボパターナリズムと絡んでくるので難しいのですが,個人的には認めたく有りません。でも,正直に事実を指摘するだけでは不足なのは間違いありません。診療室内の診療行為では患者さんへの配慮が必要です。

 しかし,美味しんぼは,精神的なトラウマでこころが傷ついている人に対する診療行為では有りません。少なくとも,誰でも読むことが出来る言説にウソも方便を認めるわけには行きません。堀有伸さんは,患者さんへの配慮が必要な診療と混同しているのではないでしょうか。

 仮に診療行為としてウソをつくのなら,細心の注意が必要で,病が治癒した後では種明かしすることも必要だと思います。ウソの内容も程度もそれぞれの患者さんに合わせるべきで一律でよいはずが有りません。美味しんぼは不安や疑問を持つ人にすり寄っているだけでしょう。

 確かに,出口を失った怒りほど対処の難しいものは有りません。常々感じている事ですが,運の悪い事ほど怖いものは有りません。加害者が明確なら怒りのやり場が有るのですが,運が悪いとしか言いようのない被害は諦めるしかないからです。だからといって,怒りのはけ口をねつ造してよいとも思いませんが,その需要は非常に強いと感じます。

 また,怒りを向けるべき社会的な対象が隠ぺいされていた訳ではありません。東電や政府,受け入れた町であることは明白です。美味しんぼは,隠ぺいを曝いてくれたのではなく,不安を増幅しただけです。原発事故の被害者にはメンタルケアも必要で,怒りや疑問の感情をただ切り捨ててはいけないのは当然ですが,それと美味しんぼのようなデマは同列には論じられません。

 両論併記やメンタルケアの重要性など一般論としてもっともなことでも,美味しんぼ問題が具体例として適切なのか考えた方が良いと思います。