信用毀損罪

松本人志美味しんぼ」問題に持論「作品はみんなで作るもんじゃない」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140511-00000082-spnannex-ent

 松本は「美味しんぼ」の描写に非難が相次いでいることについて、「最近、すぐみんな抗議する」と近年の風潮に広げて話題を展開。政治への抗議は当然としながらも、この件については「作品やから。みんなで作るもんじゃない。作者のものであって、周りが抗議したって…外部の人間がストーリーを変えろとかいうのは、ちゃんちゃらおかしい」と批判によって作品の内容を変えようとすることへの疑問を呈した。

大阪府・市による「美味しんぼ」検閲疑惑
http://togetter.com/li/666259

「この表現は不適切であり、発売までにその内容を削除・訂正するよう強く申し入れます。 」5月9日。言論統制しようとしたのね、大阪府http://t.co/kBps9eie83
HayakawaYukio 2014-05-12 11:19:45

 表現の自由は有りますから,作品の内容を強制的に変えさせることは出来ません。フィクションなら,なおさらです。ただ,作品への批評,批判も自由ですし,作品によって実害を被るとなれば対抗措置も有り得ます。行政機関も私法の適用がありますので,民事原告になれますし,刑法でも信用毀損罪という定めが有ります。

(信用毀損及び業務妨害
刑法 第233条虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 「美味しんぼ」はフィクションですが,問題の回は実名の元市長が登場し,作者も取材による事実だと主張しているのですから,実質ノンフィクションです。もし事実でなければ「虚偽の風説」に該当すると思います。

 ただ,いきなり法的措置をとるのではなく,通常は申し入れを行い協議します。福島県の対応も「丁寧かつ綿密に取材・調査された上で、偏らない客観的な事実を基にした表現とされますよう、強く申し入れます。」です。この段階で,取材し直して作者が訂正すれば決着です。しかし,話し合いが付かず平行線となると,法的決着を図ると言う段階に進みます。福島県の受けたあるいは受けるかも知れない被害を考えると有り得る措置だと思います。

 次に大阪府大阪市の対応は,「厳重に抗議するとともに、作中表現の具体的な根拠について是非開示されるよう強く求め、場合によっては法的措置を講じる旨、申し添えます。」と「この表現は不適切であり、発売までにその内容を削除・訂正するよう強く申し入れます。」となっています。こちらもあくまで申し入れです。協議が不調の場合は法的措置の予告もしています。

 作品に対する検閲という批判については,そもそも行政に漫画の検閲の権限は有りません。私法的な関係における申し入れです。それで決着しないなら,第三者である司法の判断を求めるわけです。仮に,見解の相違で終わるようなことなら法的措置にはなじみません。しかし,放射線と鼻血の関係は学術的に議論のあるようなことではなく,福島県で鼻血が増えているという信頼出来るデータがあるかについても確かめることが出来ます。元市長の話を鵜呑みにしたのではなく,ウラもちゃんと取った取材をしているかも確かめることが出来ます。

 つまり,「虚偽の風説」であるかどうかは確かめることが出来ます。表現の自由は誰も制限出来ませんが,表現したものの責任は取らなければなりません。刑事的には50万円以下の罰金ですが,民事の損害賠償は被害に応じて決まります。

 九州の魚は有機水銀汚染されているという事実無根の漫画を書く自由は有り,だれも検閲の権限は持たないのですが,被害を被る当事者の申し入れの自由もあります。さらに,表現の結果的な責任も伴います。刑法の定めも,「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害してはいけない」とはなっていませんが,「妨害したものは、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」という事後的な刑罰は有ります。