再発防止策

 一般的な話ですが,信頼を裏切る大きな不正事件が発生すると,再発防止委員会が立ち上げられたりします。そこで,大抵出てくる再発防止策が「チェック体制の強化」です。不正を見抜けなかったのだから,ちゃんとチェックしろというのは自然な流れです。ただ,ちゃんとチェックしろの内容が問題です。多くの場合,チェックの数を増やせ,多重的にチェックせよ,徹底的にチェックせよというに過ぎません。これでは分業に基づく組織的な仕事になりません。部下の仕事の結果だけでなく,その経過においても不正が無かったことを上司が把握しようとするくらいなら,自分一人で仕事した方が楽でしょう。現実的には上司はチェックするのに追われ,部下はチェックされる資料作りに追われ,肝心の仕事が出来なくなります。そのうちこんな事やってられるかとなって,チェックが形骸化してしまいます。

 多分,もっと効率的なチェック方法が有るはずなのです。不正や事故は振り返って見れば,なんでこんな簡単な事を見過ごしていたのだという馬鹿みたいな事が原因で有る場合がしばしば有ります。人間は馬鹿をしますから。その事例特有の原因を突き止め,そこに集中して対策をすべきと思います。そうすると,別の原因の事故や不正が発生する可能性が有りますが,欲を出すと,二兎を追うもの一兎を得ずになります。委員会の出す再発防止策は網羅的になりがちですが,それだと実行するのが大変です。実行でき無ければ対策にはなりませんからね。

 基本的に,社員全員を不正やミスを犯さない精鋭社員にするというのは不可能でしょう。優秀な社員もいれば出来の悪い社員もいますし,優秀な社員も体調の変化でミスするかも知れません。出来の悪い社員のミスを上司が全部チェックするというのも無理が有ります。そうではなく,多少のミスや不正が有っても,会社にとって致命的な事態に至らないようなフールプルーフ体制にした方がよいでしょう。原発だって,冷却ポンプが1つ止まっただけで,メルトダウンすることはありません。そうは言っても,1つのプロジェクトや一人の社員に会社の命運を賭ける場合もあります。その場合は,会社を挙げて,そのプロジェクトや社員をサポートする筈です。大仕事ならそれなりの対応があるものです。

 ここから例の事件の話になりますが,あの場合,1つの欠陥が致命的な事態に至るようにわざわざしていたように感じます。そう言う意味では対策は簡単かもしれません。例えば1つ思いつくのは派手な広報をしないことです。別に売り上げを上げるために宣伝が必要な仕事でもないでしょうから。公式には不正など有ってはならないと言わざるを得ませんが,現実には,原発の冷却ポンプがたまに故障するように,不正もたまに起こっているんじゃないでしょうか。それが致命的にならなければ良いわけです。決して隠ぺいせよと言っているのではありません。ポンプの故障はちゃんと報告しなければなりません。