意味不明のコンクリート強度の告示

■設計基準強度にコンクリート強度が達しなければならない時期
 コンクリートは固まるにつれて強度が出てくる。では,建築物の設計に用いた設計基準強度に達しなければならない時期はいつだろうか。専門家なら当然知っているはずだ。コンクリート打設後28日と思っている人は知識のアップデートが出来ていない。正解は91日である。建築物のコンクリート強度にかんする告示に明確に書いて有る。

昭和56年6月1日建設省告示第1102号
最終改正 平成12年5月31日建設省告示第1462号

建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第74条第1項第二号の規定に基づき、設計基準強度との関係において安全上必要なコンクリートの強度の基準を次の第1のように定め、同条第2項の規定に基づき、コンクリートの強度試験を次の第2のように指定する。

第1 コンクリートの強度は、設計基準強度との関係において次の第一号又は第二号に適合するものでなければならない。ただし、特別な調査又は研究の結果に基づき構造耐力上支障がないと認められる場合は、この限りでない。

一 コンクリートの圧縮強度試験に用いる供試体で現場水中養生又はこれに類する養生を行つたものについて強度試験を行つた場合に、材齢が28日の供試体の圧縮強度の平均値が設計基準強度の数値以上であること。

二 コンクリートから切り取つたコア供試体又はこれに類する強度に関する特性を有する供試体について強度試験を行つた場合に、材齢が28日の供試体の圧縮強度の平均値が設計基準強度の数値に7/10を乗じた数値以上であり、かつ、材齢が91日の供試体の圧縮強度の平均値が設計基準強度の数値以上であること。

第2 (略)

 告示第1の第二号に「材齢が91日の供試体の圧縮強度の平均値が設計基準強度の数値以上であること。」と書いてある。しかし,第一号には「材齢が28日の供試体の圧縮強度の平均値が設計基準強度の数値以上であること。」とも書いてある。これはどういう事だろうか。実は第一号で確認しているのは,現場水中養生供試体というもので実際の建築物のコンクリートの強度(構造体コンクリート強度という)ではない。現場水中養生供試体は水中という条件の良い状態で養生するため強度発現が構造体コンクリートよりも早い。その事を利用して,28日の現場水中養生供試体の試験結果から91日の構造体コンクリート強度を推定しているのだ。構造体コンクリートは28日では設計基準強度に達していなくてもよい。

 第二号は,実際の建築物から切り取ったコア供試体あるいはこれに類する供試体を用いる。こちらは、ほぼ構造体コンクリートと同じような強度発現経過を辿る。そのため,材齢91日となっている。「これに類する供試体」とは現場封かん養生供試体と言われるものである。もちろん,現場水中養生供試体を用い28日で確認しても,現場封かん養生供試体を用い91日で確認しても,いずれでも良い。上に引用した告示でも,「第一号又は第二号に適合する」となっている。

 現実には、殆ど28日で試験をしている。これが誤解の原因だが,供試体の強度と構造体コンクリート強度は違うものであることを意識している人は意外に少ない。構造体コンクリート強度は直接確かめる事が出来ないので(建物が壊れてしまう)供試体の強度を用いて推定しているに過ぎない。

■告示の主旨不明の規定
 さて,問題は告示第1の第二号にもう一つある定めである。「材齢が28日の供試体の圧縮強度の平均値が設計基準強度の数値に7/10を乗じた数値以上」であることも要求されている。この理由について,建築学会の仕様書JASS 5の解説には「材齢28日までの強度発現が極めて遅く,その時点で短期許容応力度に達していないのは不都合であるとの理由に基づくが,・・・」と記載されている。しかし,何故,短期許容応力度に達していないのが不都合なのかは説明がない。私にはさっぱり分からない。

 また,JASS 5の解説には「材齢91日で設計基準強度を満足するコンクリートにあっては,材齢28日で設計基準強度の0.7倍を満足しないという確率は極めて低いことが知られている」とも記載されている。つまり,材齢28日で設計基準強度の0.7倍以下であれば,材齢91日で設計基準強度以上になる見込みも薄いと言うことである。このことから,早めに91日試験結果の見当を付ける程度の意味はあるのかも知れない。このような見当を付ける目的は理解できるが,見当が外れて91日で設計基準強度が出るのなら何も問題はないのであるから,28日の強度を条件付ける必要は無い。

 あえて考えれば,施工中に地震に遭遇しても良いように,短期許容応力度相当の0.7倍以上を求めているのかも知れない。しかし,施工中はコンクリートに強度は期待していない。当たり前だが打設直後は全く強度は無い。建物を支えているのはコンクリートではなく仮設の支保工である。支保工を解体するに当たっては別に供試体を用意し強度の確認を行っているのである。

 それに,91日時点で設計基準強度以上の強度があるのなら,過去に遡り,28日時点に0.7倍以上無かったことを問題にする理由は全く無い。施工中に地震被害を受けることなく出来上がっていることは実証されているのだ。私には告示の0.7倍の規定の理由は全く分からないし,納得出来る説明をみたことがない。

建築学会は主旨不明規定を無視

 実は,JASS 5には,この規定はない。従って,建築学会は不都合とは考えていないのである。もし本当に不都合なら,JASS 5でも定めていなければならない筈である。また,28日までに構造体コンクリート強度が設計基準強度の0.7倍以上必要であるのなら,現場水中養生供試体で試験する場合でもその確認が必要である筈だ。現場水中養生の28日は構造体コンクリートの91日に対応しているのであるから,構造体コンクリートの28日相当として,現場水中養生供試体の8日頃に試験しなければならないことになる。

 前述にしたように,材齢91日で設計基準強度を満足するコンクリートが,材齢28日で設計基準強度の0.7倍を満足しないという確率は極めて低い。しかし,これは一般的な普通ポルトランドセメントを用いたコンクリートの場合であって,強度発現がゆっくりと進む低熱セメントの開発によって必ずしもそうとは言えなくなっている。28日で0.7以下であっても,91日には設計基準強度以上になる場合も有りうるのである。このようなセメントを用いる場合,告示の規定は大きな障害となる。このような事情のため,JASS 5では告示第1の第二号の定めは時代に合わなくなっているとして無視しているらしい。
(続く)