捕鯨広報の困難さ

 捕鯨の公報活動は極めて困難に思えます。

 IWCは,元々捕鯨国の集まりでした。捕鯨国同士は利害関係があります。一国が乱獲すれば,他の捕鯨国が困りますので,漁獲高割り当て,資源保護の取り決めをするのが目的でした。鯨が絶滅すれば困るのは捕鯨国です。それに対して非捕鯨国には利害関係は殆どありません。鯨が絶滅しても,ホエールウォッチングが出来なくなる程度で,別に大きな影響はありません。にもかかわらず,IWCに加盟するのはなぜかというと,国内の選挙対策でしょう。

 環境問題,動物愛護は有権者の感情に訴える効果的な政策です。政治家は反捕鯨が文化の押しつけであることを理解していても,反捕鯨の旗を降ろすわけには行きません。票が逃げるからです。この事から,公報活動は,一般人に対してアピールするものでなければなりません。さらに「文化のおしつけだ」という小難しい理屈では駄目で,感情に直接訴えるものでなければ効果がありません。

 となると,捕鯨擁護の公報は反捕鯨に比べて圧倒的に不利です。なぜなら,訴える相手は鯨食の習慣がなく,動物愛護の文化を持つからです。その文化が唯一ではなく,他の文化も認めて下さいなどと説得する必要はなく,感情に訴える「動物虐待」の映像を流せば済みます。The Coveのような映画が効果的なのは当然です。動物を殺す漁の現場の現実を知らなければ,日本人だって嫌悪感を催す人もいると思います。

 一方,捕鯨擁護の公報は,先ず異文化を理解してもらう必要があります。宗教問題と似て,異文化の「善悪」の基準を理解してもらわなければならず,殆ど絶望的です。利害問題なら,冷静に考えることができ,程ほどの妥協が有り得るのですが,「善悪」が絡むとやっかいです。程ほどなどありえず,「悪」は「悪」でしかありません。宗教戦争は無慈悲で徹底的な殺戮になります。

 このような条件で,如何に公報するかですが,私には良いアイデアは浮かびません。例えば,ドナドナのBGMと牛の凄惨な屠殺映像を使い,あなた方だって同じだと訴えるとか・・・,駄目でしょうね。
あるいは,少数民族の伝統的捕鯨は米国も認めているので,日本の零細漁業者が反捕鯨で貧困に喘いでいる映像というのも考えられますが,そもそもそんな実態があるのかも知りません。どちらかと言えば,大企業の捕鯨船団が反捕鯨国の庭先まで遠洋捕鯨をしている映像が頭に浮かびます。そして,それば高々1930年代から行われているだけで,決して伝統文化ではありません。

 漁業は農業でいえば,自然の木の実の採取のようなもので,極めて原始的な状況といえば言えます。海は非常に広いので,それでも成り立っていたわけですが,そろそろ狭くなり始めており,その原因は日本に一番あるという引け目もあります。