微妙な話ー詐欺と善意

 「儲かるなら,何故自分で買わないのだ」。こう言って証券のセールスを断る人も多いと思います。コンビニエンスストア等のフランチャイズ制も儲かるなら何故直営でやらないのかというのも同じ疑問です。でもウソをついて売っているのではないのですね。理由は,限られた資金で大きな利益を出すためと,リスクの分散と言われています。分かりやすい説明が下記に書いてあります。
http://auctionarbitrage.jp/index.php?option=com_content&view=article&id=2704

 そもそも株式会社がそのような仕組みになっています。投資額の20%の利益が見込める事業があっても,自己資金が1千万円では200万円の利益しか生み出せません。株主を募り,10億円の規模にすれば,全体で2億円の利益を生みだし,10%の手数料でも2千万円が自分の利益になります。では,10億円の融資を受け単独で事業を行えば,2億円まるまるが自分の利益になりますが,10億円も融資してくれる銀行はありません。リスクが大きすぎるからです。そこで,10億円を分散すれば,リスクを引き受けてくれる株主もいるという次第です。

 しかし,儲からない怪しい話もあります。内職商法がその典型ですが,利殖を餌にして商品やテキストなどを売りつける詐欺の手口です。大体利益は出ません。この詐欺商法もまともなフランチャイズも枠組みは同じです。違うのは、具体的なコンテンツです。結局コンテンツの判断が必要ですが、素人には難しいです。最初から詐欺のつもりだったかどうか知るのも難しいです。まともな商売として始めたけれども加盟者は儲からない事が分かったとします。でも、本部はしばらくは儲かります。いずれは破綻しますが、当面は利益が出ます。これを誰かが意識的に利用したのが詐欺の始まりかもしれません。要するに、架空融資などと同じ借り逃げです。詐欺なのか、詐欺ではないのかは、儲からないと分かっていたのに儲かると「ウソ」をついたか否かにかかわります。しかし、「ウソ」かどうかは本人の意識ですから、客観的に決めるのは難しい面があります。「騙すつもりはなかった」は常套句ですが、それがウソと証明するのは簡単ではありません。詐欺とまともな商売の違いは微妙な面があります。

 子供の頃そう言う事例を目にしてきました。私の親はペット販売や繁殖をしていましたが,顧客にも犬の繁殖を奨めていました。子犬が生まれれば,買い取るから,儲かるよと言うわけです。それで,結果は儲かっている場合もそうでない場合もあるようでした。時々トラブルもありましたが,そもそも犬好きが小遣い稼ぎ程度のつもりで始める人ならば,儲からなくても気にしない場合も多いのです。多分,そう言う例も含めた全体では,儲かっていないのではないかという印象がありました。勿論,世の中の景気次第で,ペットがどんどん売れる時には,素人繁殖家でも儲かります。幸いにして私の親は犯罪人にはなりませんでしたが。

 私の親は,自分で直接,繁殖するよりは,多くの繁殖家を募った方が儲かるということに気づいていたようです。表向きは「みんなに儲け話を教えるという好意だ」と言っていましたが。冒頭の疑問「儲かるなら何故自分でしないのか」の答えは商売の経験があるなら自然と分かる様です。問題は,そこからまっとうな商売に発展するのか,詐欺の道に落ち込むのかです。常々思うのですが,詐欺師は特殊な人種ではなく,まっとうな商売人と紙一重なのです。しかし,最終的には大きな違いになってしまいます。

 というようなことを,「奇跡のりんご」の話を聞いて思い出しました。奇跡のりんごの生産者の木村氏は,実のところあまり生産をしていないようです。メディアに取り上げられ世間に名を知られる様になったため,講演活動や,自然農法の指導者としての活動が目立っています。見方によっては,木村りんごは高く売れて儲かるからとフランチャイズを募っているようなもので,自分自身はほとんど生産していないようにみえます。木村りんごは市場にほとんど出回っていませんし。私も食べたことがありません。

 さて,自然農法のお弟子さんが儲かっているとまでは言わなくても,生産者としてやっていけるのなら問題はありません。でも,実際のところどうなんでしょうか。木村氏が素晴らしい農法をみんなに教えたいという好意(善意)であることは疑いませんが,お弟子さんの生活をかつて御自分がそうであったように破滅に向かわせているのでないことを祈ります。