主流の医者はMCSを治せるのか

 臨床環境医の治療は効果を上げていないという調査結果をNATROMさんは示しています。

臨床環境医の治療を受けて、「症状が改善したのは50例中2例のみ。26例は不変で、22例が悪化」

 それに対して,「主流の医師は治せるのか」という反論が出ています。
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20130907#c

インチキ医療って言ってるけど結局内科医達には何が出来たの?

それは間違いとまでは言わないけど苦しんでる患者はどうするの?

 これは,偽らざる気持ちでしょう。
標準医療でも難病であり,なかなか治らないから,怪しげな医療に走ってしまうわけですからね。アレルギーは完治は難しいともいわれます。末期ガン患者が色んな治療を試すのと同じ心理のような気がします。

 さて,この反論に応えるのはなかなか難しい。上述のように難病であるという事情の他に,そもそも主流の医師はMCSという診断をすることは少ないでしょうから,MCSを治療して効果があったというデータはあまりなさそうです。

 その代わりになるかどうか分かりませんが,MCSと診断されるものの中に含まれると疑われている別の病気の治癒率が参考になるかも知れません。

 もっとも,MCSの症状は何でもありですから,なかなか大変です。とりあえず「MCSがパニック障害である可能性を示唆する2000年の研究」があるそうなので,「パニック障害」をちょっとだけ調べてみました。
http://transact.seesaa.net/article/374054516.html

 一般的な長期予後として、約30〜40%の患者が健康を維持し、約50%が改善しても症状が残り、残りの10〜20%は同じか若干悪化する事が示されています(Kaplan & Sadock:SYNOPSYS OF PSYCHIATRY 9th edition:P.606,2003)。一方、発症後7年目の転帰において、治癒率が14.0%との報告(Noyesら:J Nerv Ment Dis181:529‐538,1993)や、発症後平均3.9年目の転帰において、治癒率14.4%、寛解期のため定期通院不要なものは22.7%であるとの報告(竹内龍雄:パニック障害の経過・予後.パニック障害,新興学術出版社,東京,67−77,2000)もあります。
http://www.e-heartclinic.com/kokoro/senmon/panic11.html

 患者は、よくなったり悪くなったりしながら、慢性に経過する傾向が あります。また何年も発作が起こらなかった後に、ぶり返すこともあります。パニック障害の患者を治療して、6−10年後にその状態を調べたところ、 ●30%が治癒している、●40−50%は軽快したが、症状が残っている、●20−30%はあまり変わらないか、悪化している状態だったそうです。
http://www.design.kyushu-u.ac.jp/~hoken/Shiori/00Panic.htm

 臨床環境医の4%(50例中2例)より好成績です。ただし,パニック障害であったならです。アレルギーならば,あまり治癒率は変わらないかもしれません。しかし,完治は無理でも症状を抑える方法はありそうなので,下手な治療をして50例中22例が悪化よりはマシかも。

 勿論,臨床環境医の主張のようにMCSという病気が存在し,パニック障害ともアレルギーとも違うのであれば,これまでの話は無効です。でも残念なことに,他の病気ではなくMCSであると判断できる診断法は無いのだな。



【追記9/11】
主流の医療と臨床環境医の治療の効果の比較について、NATROMの日記のコメント欄でNATROMさんもコメントしていました。
なるほど。
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20130907#c

石川哲先生によれば、先進国では人口の10%が化学物質過敏症だそうです。それが事実だとして、臨床環境医の数を考えると、化学物質過敏症の人のほとんどが通常の医療でコントロールできているわけですね。むしろ、「臨床環境医で診療を受けています」という人たちのほうが病状が悪そうに見えます。いくらでも例を挙げることができます。