患者に不利益を与えるイデオロギー

 全員とは言いませんが、殆どのMCSと言われる患者さんが第一に望むことは,症状が無くなること,或いは軽減だったはず。それが困難ならば,種々の支援も必要です。経済的支援では,労災認定,障害年金支給などがあります。

もし,症状が無くなることが期待出来るなら,効果が確認されていない民間療法例えば「気功」などを試すことも無碍には否定できないとさえ思います。もちろん,安全性の確認は必須ですので信頼できる主治医などと相談して上の話です。*1
 臨床環境医は正規の医師ですし、MCS患者さんにとっては信頼する主治医ですから、もし、治療効果があったのなら、結構なことです。その治療が他の患者さんでも効果を期待できるものなのか疑問がありますが、その患者さんに限り利益があったのは事実でしょう。(ただ、他の治療ではもっと効果があったかもしれないという、機会損失である可能性は残る。)

 というように方策には留保条件はつきますが,症状の軽減,消失,支援が患者さんにとって一番必要なはずです。不思議なのは,一部の患者さんの言動を見て居ると,MCSと診断され治療を受けているらしいのに,相変わらず症状が続き,生活に大きな支障が有るらしいことです。それどころが,受けられるはずの経済的支援も受けられないという不利益を被っている例もあることです。また,経済的支援を受けられたけれども,MCSと認定されなかったことに不満に思い,かえってストレスを感じている方もいることです。さらには,ネット上でMCSに否定的な意見を見て,ストレスを感じる方もいます。

 これらの患者さんにとって,一番大事なことは,症状の軽減,消失,支援ではなくて,MCSと認めて貰うことになってしまっているようです。MCSを主張する医学者ではないのですから,別に自分の主義主張が通らなくても困らないはずなのに,何故そうなるのでしょうか。確かに,肉体的苦痛よりも,自分の主義主張が世間に認知されない苦痛の方が耐えられないことが有ります。ですから,ストレスを感じてでも守るべき主義主張なら仕方無いと思います。しかし,実は自己のアイデンティティに関わるような主義主張なのでしょうかね。そもそも,専門家ではない患者さんに医学的な説の主義主張が有るのが不思議なことです。元々有ったのは,自分の症状のつらさを分かって欲しいと言う欲求でしょう。これならば、主義主張の認知とは違い,他者も理解してあげる必要が有るものです。

 もし,苦痛を理解して欲しいと思っている患者さんに,理解してくれるように見える主義主張が寄り添ったらどうなるでしょうか。患者さんはその主義主張に強くコミットしてしまうことは十分考えられます。その結果,その主義主張は症状の軽減,消失,支援に役に立たないどころが逆効果であっても強く信じ込むことになります。責められるべき者は,主義主張を以て寄り添ってくる者です。その者は,患者さんと違い,その主義主張が認められることから直接的な利益を得ることが出来るのです。
 臨床環境医と患者さんの関係に詐欺師と被害者の関係に似たものを私は感じます。こういうことを書くと,「医原病」発言以上に反発をくらいそうですが,この場合の詐欺師とは善意の詐欺師を意味します。詐欺師の釈明を聞くと,「被害者の利益になると思って行った」と悪意を認めない場合が多いです。場合によっては「利益が出せる筈だったのに,当局(競争相手)の妨害で駄目になった。自分は陰謀の被害者だ」のようなことをいう詐欺師もいます。彼らは,自分の発言を信じ込んでいるように見えます。自分自身を騙してこそ一流の詐欺師と言われることもあります。高齢の被害者が話し相手になってくれた詐欺のセールスマンの勧誘を善意と信じ、被害を被ってもなお、セールスマンを弁護したりします。

 主義主張に利益が絡むとはいえ,殆どの臨床環境医は患者さんのことを親身に考えている善意の医者でかもしれません。しかし,その主義主張は詐欺とは言いませんが,主流医学からは認められていない仮説に過ぎません。そのような仮説でも患者さんが信じ込んでしまえば,利益どころか被害を被ってさえも,臨床環境医を弁護してしまうのが,何とも言えず悲しいです。

 というようなことで,患者さんを批判するのは詐欺被害者を批判するような気の重さがあります。しかし,被害者が加害者になるというのも,この種の問題の悩ましい特徴です。事実は事実として周知すべきだと思います。私は専門家ではないので,そのような情報を提供出来ませんが,粘り強く提供している方々には敬意を表します。

 他方で,自己の主義主張に患者さんを巻き込み,不利益を与えかねない人は臨床環境医以外にもいますね。この方の主義主張はMCSではなくて,「弱者の患者さんを抑圧する権威的医学批判」であるように感じます。MCSの核心に関わる議論になかなかならないからです。

*1:あくまで個人的という留保がつく。不確かな治療法を公に宣伝するのは違法である。最悪でも効果が無いだけで無害であることが条件である。その判断は信頼出来る主治医の助言を煽ぐべきである。また,仮に効果が有った場合,これが口コミで広がる恐れもある。その結果,自己責任の個人的行為ということが忘れ去れて大きな弊害を招くかもしれず,決して奨められない。しかし,藁にもすがりたいという患者さんの気持ちを否定することも出来ない。難しい問題だと思う。