文字にしてあることと反対の意を行間から読み取る

 アメリカ肺協会・アメリカ医師会らの1994年の報告書
http://www.epa.gov/iaq/pubs/hpguide.html#faq1
の解釈についてsivadさんは,次の様に書いています。

つまり、非常に慎重な書き方ではありますが、これらは臨床環境医を排除するための記述ではなく、むしろ”allergists and other specialists”と”clinical ecologists”が重なり合っていることを認識してもらうための文章だといえるでしょう。

続・NATROM氏はどこで道をあやまったのか〜”allergists and other specialists”とはだれか〜
http://d.hatena.ne.jp/sivad/20130811

 報告書の該当部分とsivad訳は次の通りです。

Primary care givers should determine that the individual does not have an underlying physiological problem and should consider the value of consultation with allergists and other specialists.

プライマリケア*1にあたる者は、患者に生理学的問題が潜んでいないことを確認し、そしてアレルギー医や他の専門家の診察を受けることの意義を考えるべきである。』

 この「他の専門家」とは臨床環境医のことを言っているという解釈です。
私は違う解釈をしました。それを示します。


 上記引用文が含まれる項目の記述の骨子は,次のようなものです。

・MCSの診断名(ラベル)の現象の定義は捉えがたく,病因の実体が確認されていないが,その適用は増えており,広く知られるようになり,論争が起きている。

・臨床環境医はMCSが生理的なものであると考え,開業医の一部は精神的なものと考えている。

・現在のコンセンサスは,患者の訴えを精神的なものとして却下するのではなく、包括的な検査をすることが不可欠というもの。

プライマリケアにあたる者は、生理学的問題でないことを確認し,アレルギー医や他の専門家のコンサルを受けるべきである。

・臨床環境医は主流ではないが近年注目を浴びている。(どういう意味で注目をあびているかは書いてない)

 更にまとめると,
 MCSと言われるものは心理的なものという見解もある。しかし,(MCS以外の)生理学的問題かもしれないので,プライマリケアでは生理学的問題でないことも確認し,アレルギー医や他の専門家(精神科医等)のコンサルを受けなさいと言う解釈です。前の記事にも書きましたが,「心因性」と判断するためには,「生理的」なものの除外確認が必須だと思います。安易に「心因性」と判断するのは危険ですから。

 基本路線はあくまで主流医学の専門家(conventionnal medical speciality )であり,その中で心理学的,生理学的両方の確認をしなさいということです。

 つまり,他の専門家とは臨床環境医ではなく、主流医学の専門家です。ただ、生理学的問題でないことの確認の方には,臨床環境医も含まれる可能性もありますが,そもそもMCSは捉えどころのないものと言っているのですから,確認の役に立つとはあまり期待していないのでは。そして、生理学的問題でないことの確認の方には臨床環境医が含まれても、その他の専門家に含まれるはずがありません。

 ただ、それほど厳密な書き分けをしているのではなく、大雑把に、様々な専門家の意見を参考にせよと言っているだけかもしれません。重要なことは、MCSの定義は捉え難く、病因の実態も確認されていないから、色んな可能性を考えなさいということでしょう。

 少なくとも、アメリカ肺協会・アメリカ医師会が,臨床環境医やMCSの意義を擁護しているというような意味を行間から読み取ろうとするのは無理じゃないのかな。MCSや臨床環境医に対する評価は、行間ではなく明確に書いてあるのですから。あまり、深読みするのもどうかと思います。

追記(8/15)

 件の報告書は,内科医や保健専門家向けに書かれたもので,該当箇所は,MCSと思い込んでいる患者や臨床環境医からMCSと診断された患者にどのように対処すべきかを示したものでしょう。

 既にMCSと診断されたものについての再評価,臨床環境医の診断に対するセカンドオピニオンのような状況を想定した記述と言えます。当然,意見を求めるべき専門家は臨床環境医以外ということになります。

 この報告書におけるMCSの位置づけは報告書の構成からも明白です。
 報告書の最初の方にDiagnostic Reference の表があり,Sick Building Syndromeは記載されていますが,MCSは有りません。また,MCSについては,(Question That May Be Asked)というQA的な節の中の一つの項目にすぎず,メインである他の室内汚染物質の記述と明らかに扱いが違います。メインの記述では室内汚染物質の基礎情報,症状,検査,治療方法などについて記述してありますが,MCSについてはそのような記述は一切無く,既にMCSと診断されたか或いは思い込んだ患者が来ても,論争のある疾患概念なので鵜呑みにしたり,あるいは安易に心因性と判断せずに,他の専門家に意見を求めよと書いてあるだけです。

 もし自らMCSと診断しようとする医者の為に書かれているのなら,Question That May Be Askedの中ではなく,Sick Building Syndromeなどと並列に記載されているはずです。その専門家である臨床環境医に意見を求めよという記述も有るかもしれません。症状,検査,治療方法の記述は必須です。ところが,それができないのがMCSです。症状は何でも有りだし,まともな診断基準も有りません。

 このような記述があるのは,臨床環境医によって,MCSと診断される例が増えて,一般人(患者)注目を集め,自分もMCSではないかと疑う人が増えているからでしょう。

 ちなみに,sivadさんが,臨床環境医について掩護的に書かれているという箇所は次の通りです。

臨床環境医学は一般人のみならず、医療専門家の注目を集めているということ。

 →注目を集めるというのは,よい意味悪い意味両方で使われます。価値判断が無い場合も有ります。

clinical ecologistsをphysicians(正規の医師)と書いていること。

 →医師免許を持った正規の医師ということは擁護の理由にはならない。免許を剥奪される医師もいる。

臨床環境医学会には、アレルギー医や内科医が集まっているということ。

 →前項に同じ。アレルギー医や内科医もいろいろ。

 臨床環境医について事実を淡々と述べているだけでしょう。掩護や批判というような評価は含まれていません。一つだけ評価が有るとすれば「主流医学」になっていないということだけです。